『オッペンハイマー』 クリストファー・ノーラン 監督作品
大阪梅田で鑑賞。すごかった。
映画としての評価についてはいろいろな人が語っているので、私は私なりの感想というか思索の一部を記録しておきます。
「我は死なり。世界の破壊者なり」
オッペンハイマーは自らをヴィシュヌ神の化身クリシュナになぞらえ、このように語りました。ここでの「我」とは、まさに「我」の発見の産物である西洋近代科学そのものでありましょう。
一見、「我」を排除するかのような科学は、実は「我」の化身であったという皮肉。これは今西欧社会が直面している危機そのものでもあります。
そうしたパラドックス的な表現がここかしこに見られました。被爆地を描かないことよって描いていたのもその一つでしょう。音楽や音声もそのような効果を狙っていましたし、また、粒が波になり、波が粒になるような、観る者の分析的理解と感情の行き来にも、そうした傾向が感じられました。
そう、時間へのこだわりも含めて、ノーラン監督のこだわりは、まさにそうした反二元論的な世界観なのだと思います。
はたして人類の智慧とは愚なのか賢なのか。映画の根幹部分さえも揺れ続けています。
文明とは、人間の我欲によるエントロピー減少の所業です。そして、文明破壊の「爆発」とは、それを一気に自然に戻す、エントロピー増大の仕組みだとも言えましょう。
これは最低でもあと3回は観ないといけないかも。この作品を通じて、もっと気づきたい。そう思わせる傑作でした。
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 追悼 大宮エリーさん(2025.04.28)
- 『新幹線大爆破』 樋口真嗣 監督作品(2025.04.23)
- 『アルプススタンドのはしの方』 城定秀夫 監督作品(2025.04.01)
- 『映画の奈落 完結編 北陸代理戦争事件』伊藤彰彦 (講談社α文庫)(2025.03.26)
- 『北陸代理戦争』 深作欣二監督作品(2025.03.25)
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- 家康公遺言(岡崎城)(2025.04.18)
- 小林一三『清く、正しく、美しく』(風々齋文庫)(2025.04.11)
- 新幹線発祥の地「鴨宮」(2025.04.05)
- 鯖江の眼鏡(2025.03.27)
- 『映画の奈落 完結編 北陸代理戦争事件』伊藤彰彦 (講談社α文庫)(2025.03.26)
「自然・科学」カテゴリの記事
- 能『杜若』(2025.05.01)
- 「超々広角」星空観賞用双眼鏡 Super WideBino36(笠井トレーディング)(2025.04.27)
- 失われた定禅寺と定禅寺桜(2025.03.29)
- 上野公園の桜(2025.03.28)
- 東龍 純米酒 『龍瑞』(東春酒造株式会社)(2025.03.07)
「歴史・宗教」カテゴリの記事
- 能『杜若』(2025.05.01)
- 国語便覧(第一学習社)(2025.04.25)
- 近鉄特急(2025.04.20)
- 伊勢の外宮に思う(2025.04.19)
- 家康公遺言(岡崎城)(2025.04.18)
コメント