渡辺裕 『サウンドとメディアの文化資源学ー境界線上の音楽』を読んで
受験指導の現場を離れて久しい。今思うと、よくぞ不毛なことをしてきたものだと「感心」します。ある意味低次元なゲームの攻略法を教えることが仕事だったので、それはそれで案外楽しいものでした。だからこそ、不毛と言えば不毛。
ゲームの攻略法が人生の攻略法になることもあろうかと思いますよ、場合によっては。しかし、ゲーム自体が生徒の将来を決めるというのには、積極的に賛成はできません。
かつては共通テスト、いやセンター試験のたびに、国語の問題について(に限らず様々な科目の問題について)いちいち評論めいたことを書き、年によっては(今風に言うと)炎上したこともをありましたっけ。
最近は必要性もなくなったので、あまり記事にしてきませんでした。しかし、今年はあえて共通テストの国語の、評論の本文について書きたいと思います。ただし感想文です。
音楽評論家…ではなく、音楽学者である渡辺裕さんの本は何冊か呼んだことがあります。特にサントリー学芸賞を獲った「聴衆の誕生-ポストモダン時代の音楽文化」には、若い頃多大な影響を受けました。
私は「聴衆の誕生」以前の音楽を「聴衆」の前で演奏することが多い。つまり、完璧な矛盾の中にいますので、その居心地の悪さと、居心地の良さ(?)にずっと興味を持っていました。
自分にとっての、(今となってはノスタルジックな言葉となってしまいましたが)「ポストモダン」はどこへ行くのか、気になっていたわけです。
今、その幻想的な「ポストモダン」は、よりリアルな形をもって現出しています。ある時期、一気に「聴衆」すら消えてしまい、音楽はごく個人的な持ち物になってしまいましたが、その一方、原点回帰なのか、いや原点ではないな、一つ下の階段に降りたのか、再び「聴衆」的時空間が復活せんとしています。
今回の渡辺さんの文章は、2013年に書かれたもの。まさに、そうした音楽や芸術の個人化とその副産物の矛盾を突いていましたね。
元々、音楽含む芸術は、時空を超える性質のものなので、どうあがいても「オリジナル」には戻れません。しかし、戻る意味がないかというとそうではなく、一昨日紹介したスコット・ロスが言うように、一度戻る(そして、また帰ってくる)ことには大いに意味があると思います。
未来人の素晴らしさ、特権はまさにそれであって、過去人は未来に行って帰ってくることはできません(一部の天才は除いて)。つまり、作者自身さえも、自らが生み出した作品が未来にどのように享受されるか知り得ないわけであり、逆に言えば、作者の限界を超えて未来に行き続けるモノこそが、芸術(作品)であるということが言えましょう。
私が45年もやってきた「古楽」という概念も今や終焉を迎えようとしています。つまり、モダンに対する「ポストモダン」であった「古きもの」さえも、また「ポスト」を要求する単なる「古きもの」になりつつあるということです。
私自身、ある種カウンター的な心情(コンプレックスと言っても良い)からのめり込み、肩入れしていた「古きもの」から、ようやく解放されつつあります。音楽しかり、教育しかり。なんだかんだ半世紀近くもかかってしまったわけで、我ながら自分の愚かさに「感心」するのでありました。
Amazon 聴衆の誕生 - ポスト・モダン時代の音楽文化
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