W.F.バッハ 『チェンバロ全曲集』
昨日公開されたこちらの全集、8時間以上に亘る壮大なものですが、全部聴きました(もちろん「ながら」で)。
実はこの大バッハの長男に興味がありまして、もし自分が小説なり映画なりを創作するとすれば、一つは彼を材にとって今風なドラマを作りたいと思っているくらいです。
あのバッハの長男として生まれ、ご多分に漏れず父から期待され溺愛され、直接音楽を指導されました。あまりに偉大な父が自分のために教材用の曲集を作ってくれる。しかし、そんな父を尊敬するあまり、自らの才能の限界を知ることになる。
次男やもっと下の末っ子バッハたちは、時代に合わせてうまいこと世渡りし、売れっ子音楽家となっていく。
長男は長男なりに時代の先端の音楽も勉強しますが、どうしても父の呪縛から逃れることができず、古風なフーガや陰鬱な半音階進行などを多用して、周囲からはドン引きされ、どんどん自分の世界に引きこもっていく。
なんかよくある話じゃないですか。だから現代にも通用するストーリーになりうると思うのです。
しかし、私はそんな長男バッハの楽曲が好きです。いや、私も長男ですが、父には全く期待されてませんでしたし、だいたい父は凡人以下の人、そして私は父とは全然違う道を歩んでいるので、単純にフリーデマンにシンパシーを抱いているわけではありません。
父が宇宙音楽史上にも残る天才であったことが、凡人以上の才能を持っていた長男を不幸にしてしまった…父バッハが芸術家としては天才でも、一人間としては非常に欠点の多い人であったということともに、それを見事に引き継いでしまった長男の不幸という側面になんとも切なさを感じるのです。
フリーデマンが少年のころ、実母が亡くなり、新しい母を迎えるということもありました。新しい母親もいい人だったのですが、やはり少年にとっては複雑な気持ちがあったことでしょう。
同じ先妻との間に生まれた次男エマヌエルについては、バッハは自分とは全く違う大衆的な天才性を持った友人テレマンに、その名付け役を依頼しました。その願いのとおり、次男バッハは父を尊敬しつつも、大衆的な意味でも世に認められる偉大な作曲家になりました。
長男と次男の関係性という意味でも「あるある」ですよね。長男はまじめで次男は要領が良い(笑)。
そんなことを考えながらこの全曲集を聴くとまた格別ですね。いや、普通にいい曲もたくさんあります。しかし、どこか屈折した浮世離れしたところもある。実際、当時は受けが悪く、出版もほとんどうまく行きませんでした。
こういう開かれた時代になって、ようやく彼の良さ、面白さ、深さが人々に知られるようになるのかも。そうだといいですね。彼の人生ドラマも皆さんに知ってもらいたいところです。
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