のど自慢の伴奏が生バンドからカラオケへ…
昨日書いた、教授の帰幽も一つの象徴なのかもしれません。
今日はあることがきっかけで、生の演奏と打ち込みデータ音楽の関係について、いろいろ考えさせられました。
それほど単純な話ではないことを承知で言うなら、YMOは「生演奏」と「データ演奏」の中間を行ったバンドでした。
もちろん時代的に絶妙な年代であることもたしかですが、当時のゲーム音楽が象徴するような、ある種シンプルかつ陳腐な音世界に対する、一つのパロディ、アンチテーゼとしてのYMOは、非常に面白い存在です。
日本人のイメージに対するセルフ・パロディも含めて、彼らが超一流だからこそ成り立つ逆説的な世界ですよね。
先日、たまたまついていた実家のテレビで、新生「のど自慢」を見た時には、本当に驚きました。
のど自慢を支えていた、いやほとんどそのイメージのすべてを支配していた「生バンド」の姿がなく、伴奏はなんとカラオケだったのです。
いよいよこんな時代になったか。
もちろん、世の中にあふれるほとんどのポピュラー音楽には必ずデジタル的な打ち込みの音が入っており、それを否定する気も全くありませんが、しかしのど自慢までがああいうことになるというのは、のど自慢の存在価値、すなわちシロウトの歌の楽しみを奪うことにもなりかねないと危惧します。
カミさんがのど自慢に出演した時、私はその予選から生バンドのすごさを目の当たりにし、その職人芸に本当に感動しました。そこにいた長女に至ってはのど自慢のバンドでベースを弾きたいとまで言うようになりました。
音楽をちょっとやったことがある人なら、あのすごさ、かっこよさは分かると思います。まさに臨機応変、どんなジャンルの音楽でも初見で演奏し、調やテンポもその場でどんどん変えることができる。
カラオケではそういうわけにはいきません。のど自慢はカラオケ大会ではありませんので、お年寄りや子どものアナログ的な「ずれ」も番組の一つの魅力であるはずです。
ただうまい歌を披露し聴くのではなく、出演者と視聴者が、歌に表れる「人生」を共有するのが本来の番組存在趣旨でしょう。
そういう意味では、のど自慢バンドで、まさに「あの時代」のデジタルとアナログの中間的存在としてのDX-7が複数台使われていたのは象徴的でしたね。
どうなのでしょう。そうした味わいやズレが排除されていく時代なのでしょうか。自分が古い人間なのでしょうかね(実際古いか)。
一方で、デジタル音楽にもAIの力が使われ、生とデジタルの区別がつかないような自動演奏も実現しつつあります。音楽の機会と可能性を広げるものと考えると、それも悪くないのでしょうし、音楽の、特に西洋音楽の性質上、他の分野以上にこれからもデジタル化が進むことが予想されます。
そのうち、ボカロがのど自慢に出演し、その味わいで優勝するような時代が来るのかもしれません。生人間の生演奏、生歌の価値の再確認が迫られているとも言えますね。
ちなみに、今、最も生バンド演奏をバックに歌を歌っているのはウチのカミさんでしょう(笑)。ビッグバンド、ロックバンド、アコースティック・バンド、ピアノ伴奏…本当にぜいたくな歌手人生を送っていますよ、あの人は。
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