バッハ カンタータ『われらが神は堅き砦』 BWV 80
坂本龍一さんもどこかでこのカンタータについて語っていたと記憶していますが、私もこのカンタータは若い頃から好きでした。
特に第1曲の壮大なコラール・フーガは「カッコいい」。燃えます。
しかし改めて歌詞を読んでみますと、つまりそれは神と悪魔の「戦争」の話でして、だからこそ「カッコいい」「燃える!」と思ってしまうのだということがわかりますね。
激しい戦いの表現として音数が増え、特に通奏低音が休みなく動き続けるところが「カッコいい」のです。もちろんフーガの「競い合う」感じもそれを助長します。
つまり、非常にキリスト教の悪い部分が強調された、ある意味ロック的な攻撃性を持った曲なのです。
この佐藤さん指揮の演奏は、そのあたりの表現がうまいと感じました。特に第5曲のテンポの速さは、まさに悪魔の侵攻を思わせる激しさを醸しており、それに抗して動じないコラール(神への信仰)が強調されることになっています。
激しさと言えば、バッハの長男フリーデマンは、父親のこの名曲にさらに攻撃性を加えて編曲しました。トランペットとティンパニを入れて、さらに軍楽風にしたのです。これがまた「カッコいい」のです!冒頭だけ聴いてみましょう。
神への信仰自体を、こうして人間界の戦争になぞらえることは、言うまでもなく世界中の宗教に見られることです。日本仏教や新興宗教における法難の物語も大概そうですね。
宗教と戦争の関係は複雑ですね。戦争のない平和を求めて生まれた宗教が、やがてレトリックとして戦争の外見をまとうようになる。そして、宗教を理由に戦争が起きるという皮肉なパラドックスを生む。
やはり、出口王仁三郎が言う「宗教がなくなる世がみろくの世」が唯一の真実なのかもしれませんね。
昨日紹介した曲集からもわかるとおり、坂本龍一さんはバッハを尊敬しながらも、そうしたキリスト教の罠から離れた「音数の少ない、間の多い」音楽を作り続けました。
それは現代の、いや未来の正しい「コラール(衆賛歌)」なのかもしれません。
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