仲小路彰 『昭和史の批判史』より「二・二六事件の本質」(前半)
昨日に続き、仲小路彰「昭和史の批判史」から二・二六事件に関する部分を抜粋します。
原本はわら半紙にガリ版刷りで約380ページ、27万字に及ぶ大著で、戦後始まった、唯物史観に基づく歴史の一般化に対する批判をまとめたものです。
その中から、今日は「二・二六事件の本質」という部分を紹介したいと思います。
昨日紹介したいわゆる「昭和史」としての二・二六事件に対する評価に対して、仲小路彰はどのような批判を与えるのでしょうか。
少し長いので、今日はその前半部分のみ掲載します。
(以下引用)
――二・二六事件の本質――
日本ファシズム史上、最大のクーデターであったとされる二・二六事件の本質は何であったか――「昭和史』はこれを、直接的には皇道派と統制派との争いが原因だが、その背後には日本の支配階級が直面していた内外のゆきづまりを打開しようとするあせりがあった――としている。日本の支配階級が急速に日本におけるファシズム支配をうちたてようと焦慮して、もっとも尖鋭なファシストである青年将校をして反乱せしめたとするのである。
しかし、この日本の支配階級とは何を意味するのか――それはいうまでもなく政府・重臣・軍部・財閥である。しかも「昭和史」の強調する左翼的見解によれば、軍部と政府・重臣・財閥とを対置する考えは誤りであり(三二年テーゼ)本質的には同一である。すなわちいずれもファシストであるとすでに規定した以上(これについては前述した)この主張をとるかぎり、日本の支配階級とそのファシストが、急速なファシズム体制をつくりあげるために、より尖鋭なファシストをして、本質的には同一なファシストである政府・重臣の首脳を暗殺したという、奇妙な論理をつくりあげるのである。
このような公式的主張が、歴史の発展に対してなんらそれを解明しえない皮相な見解であるばかりか、いかに歴史の真実を誤らしめるものであるかは、重ねていうまでもない。
二・二六事件は、満洲事変前後の三月事件、十月事件、また五・一五事件、血盟団事件等、一連の国内革新運動の帰結であり、それらがいずれも日本の現状――国内における貧しい階級、農民・労働者の苦悩を救い、外には、明治以来の日本の根本方向としてのアジア解放の実現をめざして、現状打破を実行したことと軌を一にするのである。
しかも、これら一連の革新運動はいずれも失敗に帰し、日本の支配階級は相次ぐ暗殺にもかかわらず、その要求を正しく理解しようとはせず、日本では国内改革はついに行ないえない状況にさえ到ったのであった。他方、日本に対する国際的圧迫はいよいよ激しく、また共産主義の脅威は、国内労働者、農民の赤化という危機的状況をますます深刻に露呈したのである。
(つづく)
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