仲小路彰 『昭和史の批判史』より「二・二六事件の本質」(後半)
昨日の続きとなります。
仲小路彰の、青年将校たちの真情と行動に対する理解や同情がうかがえる文章となっています。
それこそ安藤輝三にも読んでもらいたかった。彼は自らの蹶起の未来的な意味を知らずに、最も愛する天皇の命令のもと死刑となりました。
その苦悩、迷い、怨念、そしてそれらを乗り越えたところにある忠孝の心は、その辞世の句に表現されていました。時を経てその思いは昇華されたのでしょうか。
(以下引用)
このような状況にあって、満洲建設の進行は、それに即応すべき日本国内体制改革の急務をますます要求するとともに、革新派青年将校に新しい改革へのエネルギーを波及せしめたのである。
二・二六事件に対する最大の非難は、軍隊を使用してその目的を達成しようとした点にある。しかし、すでに五・一五事件の失敗にもみるように、個人的テロによっては急速を変革を到底実現しうる見込みがなく、ただ軍事力の動員と行使によってのみ、その可能性を見出しえた状況にあって、もとよりその手段は統帥大権と軍の秩序をみだり、皇軍を私する罪悪を問われるとしても、より大いなる変革の達成に自ら殉じようとした青年の真情を、ただ悪罵することによるかぎり、なにごとも解決しえないであろう。
まして青年将校にとって、現実の腐敗が天皇と国民をさえぎり、国民の苦悩を顧みようとしない政府・重臣の一部の存在によるものと断じられ、そのため天皇の軍隊においてさえ、それを構成する忠良な農民子弟が家郷の窮乏に士気沮喪しつつある状況を思うならば、天皇を守護し国家を防衛すべき軍隊が、まずかかる国家破壊の元兇を排除し、真に国民とともにある天皇を開顕し、国内改革を達成しようと考えたことは、むしろある意味では、青年の現実に対するむりからぬ激発であり、その原因をきわめ、それを除去することなく、一方的に否定し去りえない問題であった。日本の歴史において、一つの社会変革に際する青年の行動は、つねに同様の激動を示したのであり、大化改新しかり、明治維新またしかりであった。そしてこの青年の激動するエネルギーにこそ、つねに旧き積弊を打破して新生をもたらす日本史の展開が実現されたのである。
旧く腐敗せる体制が変革されるときには、それを根底より破壊するために、暴力の行使もまた止むをえない状況のあることを思わねばならない。
しかも、このような一大蹶起も、日本内部の根本的変革には到りえなかったのであり、ここに昭和の日本史における最大の悲劇であった。
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