倍速視聴と音楽と…
最近、倍速視聴の賛否を論ずる記事をよく見ます。
若者のそうした「タイパ」重視、ザッピング感覚に対して、古い世代は眉をしかめているようですね。
私は古い世代に属すると思うのですが、かなり倍速視聴している方です。
YouTubeは基本1.75倍に設定していますし、昨日紹介した映画もU-NEXTで1.6倍鑑賞しました。
鑑賞ではなく消費だ!と怒られそうですが、私はあまり気にしません。
というか、音楽は当然等速で再生しますし、たとえば小津安二郎の映画は等速でまったり鑑賞します。そう、選べばいいんじゃないでしょうかね。
基本、言語情報、特に文字情報が多い場合、すでにそれ自体が抽象された世界なので、そんなに問題はないと思います。それも過去の情報ですからね。
もともと言語、文字は「時短」のために生れたのですから。特に文字は。
今や私たちが当たり前に行っている「黙読」なんか、日本ではここ150年くらいの作法ですからね。音読が当たり前だった時、それこそ今の倍速視聴を批判するかのような社会的な抵抗がありました。
さらに「速読」となると、これはもう究極の「時短」であり、昔の人からするととんでもない悪行ということになります。
つまり、近代以降の多くの作品、メディアが、文字を含む言語に依存しすぎているから、こういうことになるのだと思いますよ。
記録された文字情報はウンコですから(笑)。
先程も書きましたが、音楽を倍速視聴する人はいません。できません。1.2倍でもダメですよね。逆に0.5倍でもダメ。
その事実に注目すべきです。
音楽は記録されたものであっても、再生時には聴く人にとって未来から(向こうから)やってくるものです。それも言語のように抽象化された世界ではなく、それ自体が世界本体ですから、早くても遅くてもダメなのです。
ただ、音楽もサブスクになりストリーミングになった結果、ザッピングされてしまうことは当然あるわけで、かつてのようにアルバムを最初からじっくり聴くということはなくなってしまいました。
また、作り手の側も最初の15秒で心をつかまねばならず、たとえば徐々に世界観を立ち上げる長いイントロなどはご法度になってしまいました。そうすると自然「サビ入り」が増えてしまう。
それは一般的な動画やドラマ、さらには映画の作り方にもなっていますよね。
私はこういう傾向はある程度しかたないと考えています。そして、こうなったからこそ、そうではない音楽や映画やドラマやスピーチの価値が再認識されるであろうし、その結果「記録」ではない「ライヴ」の価値も相対的に上ってくると信じています。
小説やマンガの黙読に飽きたらず、それがアニメ化したり映画化したりし、さらにそれが2.5次元化してきたように。
音楽一つとっても、ここ百年くらいの「録音文化」が異常事態だったわけです。江戸時代までは「楽譜」もほとんどありませんでしたしね。
楽譜の誕生によって音楽さえ「黙読」できるようになってしまったわけです。
生きた音楽は未来からやってきます。記録された音楽は、楽譜を1小節の1拍目から順になぞっていくように、過去から未来に向かって進行します。時間の流れが反転してしまった瞬間に生命を失っているのです。
倍速視聴やザッピングは、そうした記録された芸術を本体だと思いこんできた現代人に対する警鐘なのでしょう。
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