『教祖・出口王仁三郎』 城山三郎(その6)
変性男子と変性女子
出口ナオは、教祖にまつり上げるには打ってつけの人物であった。
貧しい酒のみの大工の子として生れ、十一歳で年季奉公。結婚した夫(大工)も酒のみで、三年間脳出血で寝こんだ後で死ぬ。残されたのが三男五女(その他に乳児のとき死んだ子が三人)。
糸引きとボロ買いをしながら、ようやく八人の子供を女手一つで育てた。ところが、折角育てた長女も二女も家出。長男は自殺未遂後、行方不明。いちばんたよりにしていた三男は戦死というみじめな有様――艱難辛苦をなめつくして生き抜いてきた女である。それだけに、その意志の強さや生活力は信徒たちの心をとらえた。
性格ははげしく戦闘的で、自らを変性男子(女性の形をとった男)と呼んだ。これに対し、王仁三郎は変性女子(男性の形をした女)というわけで、王仁三郎はまたその女役や女房役を実にたくみにこなした。
王仁三郎の性格の中には、多分に女性的な柔軟な(時に弱い)ものがある。それに、祖父から受けついだしゃれっ気も加わって、彼は大本に祭典などがあるごとに、進んで、女神とか乙姫とか、女装してふるまった。神示によって王仁三郎を変性女子ときめつけたナオにしてみれば、悪い気はしないであろう。
もちろん、王仁三郎はただナオに気に入られようとして、女装したわけではない。彼は、大本の中に、明るくおおらかな"お芝居"を持ちこむことの必要を感じたのだ。ただ、かたくなに神のお告げを伝えるだけでは、信者の心のつかめないことを。
王仁三郎は、また、芝居が好きであった。芝居とは、自分と遊び、世間と遊ぶことである。祖父のしゃっ気にも通じる。
芝居はまた、現実の自分を解放し、さまざまな自分の姿を演ずることである。爆発しそうな自己拡張欲を、そうした形で慰めることもできる。そして、その中で、彼の演出家としての才能も育って行く。
大本では、王仁三郎が入ってから、次々とあちこちの無人島を買収し、そこを聖地として、教祖以下打ちそろって参拝に出かける。神学上の解釈を別とすれば、これは、教勢伸長の演出に他ならない。
王仁三郎の芝居好きは、晩年まで続く。神聖劇や神聖歌劇を自ら演出するばかりでなく、主役として出演し、還暦を過ぎた身で布袋・弁財天・恵比寿など、「昭和の七福神」に扮したり、素盞嗚尊(すさのおのみこと)などに扮したりした。
現在の写真を見ると、扮装もうまく、とにかく一応、役柄をこなしている。しかも、それが還暦過ぎの老人ということになると、何となく気持の悪くなる人もあろう。まるで三十台の女のようなやわらかな肉つき、下り眉、細い目、とても老人とは思えぬ精力的な顔――。
王仁三郎と"芝居"との結びつきを知らぬ者は、酔興さを感じるよりもまず異様さを感じてしまう。
王仁三郎は、結構、そうした芝居をたのしみ、また、自信を持っていた。その自信は二重の意味がある。役者としての自信と、そうした芝居をやらせる自分自身の力への自信である。
昭和十年、王仁三郎は大江山太郎の名で自ら「原作・監督・主演」して、「出口王仁三郎一代記」の撮影にかかる。自信は、二重の意味で頂点に達したわけである。
王仁三郎が早くから白虎隊(少年隊)など人目をひく組織をつくり、さらに青年隊の大会には白馬にまたがって閲兵するなどということをやったことにも、彼の"芝居"好き、しゃれっ気を感じずにはいられない。(白馬は、元憲兵将校である信徒がすすめてくれたものだが、それがいかにも御料馬白雪に似せているというので、王仁三郎が攻撃される口実の一つになった。後に述べるように、彼には気が弱く、人のすすめを断り切れぬところがある。親分肌のせいとも云えるが……。それに、たとえ誤解を招くとしても、それをおそれて小さくなっているよりも、少しでも大きく振舞いたいという欲求も強かったようだ。自分をいつも自分以上に大きくし、また大きく見せよう、少くとも、自分と等価の表現だけでは満足できないものが、彼にはあった。それを彼の超人的なエネルギーのせいにしてもよいし、自己拡張欲のためと考えてもよい。そして、彼がそうしたエネルギーを奔出させればさせるほど、それがそのまま大本の教勢拡張に役立っていった。発展期の組織には、何よりそういう要素が必要であったのだ)
王仁三郎の演技は、彼等にとっては余りにも型破りであり、オーバーなものに映った。「チンコウも焚かず」式の生き方こそ宗教者の権威づけと思っていた彼等には、王仁三郎の振舞は、当てつけがましい感じさえする。王仁三郎も時には、それを意識してやっていたきらいもある。そして、いっそういまいましいのは、そうした王仁三郎の振舞がそれなりに抑圧されていた大衆の心をつかんで行ったことである。
(その7に続く)
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