『教祖・出口王仁三郎』 城山三郎(その9)
(文中のM氏については、過去記事「柳原白蓮と出口王仁三郎」をお読みください)
虚像だった女性関係
彼についての虚像の中で最も大きなものは、女性関係である。
弾圧事件で逮捕後、梅毒と噂されたり、彼の居室はダブル・ベッドが寝乱れたままで春画が置かれていたなどと流布されたのは、すべて、でっち上げであった。王仁三郎の虚像を、弾圧当局がたくみに利用したのだ。
王仁三郎の周辺に、いつも美女数多(?)がいたことは事実である。四六版三百頁の本を二日で口述したり、一夜三百首といった勢いで書きまくる彼には、常時、秘書が必要であった。特殊な関係に陥る危険を避けるためには、一人でなく、三人四人と控えさせた。
ただ、彼は早朝などの面会客に素裸で美女たちを引き連れて会ったりした。晩年になっても、彼は往々一物を人前で隠さなかった。
性がタブー視されている陰湿な風土では、それがかえって信徒の心をとらえる。天衣無縫な感じであるが、別の人たちの眼には演技過剰であり、別種の憶測を生むことになった。
虚像に輪をかけたのが、隠し子事件である。王仁三郎の親分肌を見こんだ共産党員のM氏(後に転向)が、妻に去られて非合法活動ができず、生れたばかりの女児の養育を王仁三郎にたのんだ。
王仁三郎は、それを自分の子供ということにして、教団幹部の一人に預けたのだ。終戦後M氏が迎えに来るまで、教団内部においても、隠し子説は信じられていた。
家庭生活は決して幸福なものとは云えなかったようである。だいいち、多勢の人が毎日出入りする家の中にあっては"家庭"と呼ばれる生活を営みようがなかった。
ナオの在世中は、ナオと王仁三郎は度々はげしい衝突をくり返した。ナオの没後には、教団運営の全責任が王仁三郎にかかり、彼はほとんど家庭に落着けなくなる。
彼の超人的な多種多面にわたる活動。もし彼が超人でないとすれば、その皺よせがいちばんひどかったのが、家庭生活である。そして、働き盛りの王仁三郎には、むしろ、意識的に家庭生活を無視する傾向があった。それもまた、非凡さの一つのあらわれと感じて。
家のこと妻にまかせて世のために尽すは夫の誠なりけり
家のうち始めまもりて背の君の心いやさむ妻ぞかしこき
家の内ゆたかに平和にをさまるも妻の心の梶ひとつながる
王仁三郎の歌集の中の「五倫五常」の分類の中にある歌であるが、あまりにも一方通行的で、祖父の遺言を連想させるものがある。「母が、父と夫婦らしい幸福を味わったのは、若いころ、父といっしょに荷車をひいて、柴刈りにいっていた頃と、晩年、未決から帰ってからしばらくの、父の周囲に人垣の去った、夫婦きりの暮しの時であったでしょう」
と、娘も見ている。
子供運にも恵まれなかった。男の子は全部育たず、この長女に迎えた婿は、弾圧事件のショックで精神障害を起し、以後、世間的には癈人の生活に入る。
家庭を無視してきた王仁三郎も、この衝撃だけには耐え切れなかった。娘が、婿とともに家を去って療養地に向う日、
「父は二階に上り、私の姿が見えなくなるまで、あっちへいったり、こっちへいったりして、しまいには泣いておられた」
弾圧も、一つの法難として淡々として受け流そうとしていた王仁三郎ではあったが、このときばかりは、無法そのものの弾圧当局に対して、またその命令者に対して、やり切れない憤怒を感じたにちがいない。
(その10に続く)
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