『教祖・出口王仁三郎』 城山三郎(その8)
親分肌と抱擁力
宗教関係だけでなく、また国内だけに限られたものでなかった。「万教同根」を説く教義の関係もあって、各国の新興宗教団体と提携し、さらに、大本が中心になって、北京に世界宗教連合会もつくった。(こうしたことも、おそらく既成教団の反感を買ったにちがいない)第一次大本弾圧事件の無罪判決を聞いて、二十カ国の人々によって、王仁三郎をたたえる「賛美集」が発刊されたりもした。
だが、親分肌であり抱擁力があるということは、時には弊害も生む。心にもないつき合いをし、取り巻きが生れる可能性である。
王仁三郎の娘出口直日は、こう書いている。
「父はどんな人でも迎え入れ、たのまれれば断りきれず、どこかのよいところを育てようと努力し、どんな辛抱でもしていたようでした。性来が磊落で、冗談ばかりいっていて、何だか雲をつかむようなところがありました)(続・私の手帖)
そして、その反面、
「父は気が弱くて、それらの人を抑えきれないで、バカげた責任までも負わされてしまったという人です。それでいて、人を責めるでなし、過ぎたことをくやむでなし……」
取り巻きの害について、彼女が耐えかねて父に注意の手紙を送ったところ、王仁三郎はその手紙を「娘がこう云って来たよ」と、そのまま取り巻きたちに見せてしまったというエピソードが紹介される。つまり、娘の手紙にかこつけてしか苦言の云えなかった弱さがあったというわけである。
浅野和三郎が、大正十年立て替え立て直し説を機関紙に発表するといったとき、王仁三郎は反対したが、おさえ切れなかった。その結果、大正十年には大本信徒は一大動揺に見舞われることになったが、実際には、世の立て替え立て直しは起らなかった。谷口雅春らは、それを理由に大本を去るという事態も起る。
心にもないことが、流れの泡のように、次から次へと湧いては消える。そして、それがそのたびに、王仁三郎の身から出たことになる。
だが、王仁三郎は、陣を退くことなく、戦線を収縮することも好まない。虚像の上に虚像が重なり、一つの怪物像がそれらしく出来上って行くのを眺めている。怪物像を否定して「小さな自分」になるよりも、誤解を浴びたまま「大きな自分」にとどまることを好んだのかも知れない。茶目気と侠客気質という老い銹びた細い柱の上に支えられて。
にぎにぎしく人々に取り巻かれながらも、王仁三郎の心中には、いつも空洞が穴をあけていた感じである。
(その9に続く)
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