『教祖・出口王仁三郎』 城山三郎(その5)
一挙にトップマネジメント
まず、喜三郎個人としては、弁も立ち、ユーモアもあり、人気もある。稲荷教師としてある程度、手広くやって行ける自信はあったであろう。だが、それとともに、喜三郎には、キツネツキを払い落すことばかりで潰れてしまう自分の人生といったものへの反撥もあったにちがいない。どれほど有名になろうと、稲荷おろしだけではどうしようもない。さし当っては稲荷教師としてしか行く道がないとしても、いずれは広く世間を相手に活躍できる道を選びたかったにちがいない。
新興の教団とはいえ、正式には何ひとつ認められていない金明会の側では、稲荷教師の免状持参者を抱えることは便利である。ましてその男がとくに稲荷講を信じているのではないとあれば。
第二に喜三郎は、出口ナオのエクセントリックな性格、それなりに教祖として創業者としてこの上ない魅力の持主であることを見抜いた。宗教団体としての成長性も期待できる。
貧民の娘でしかなかったナオが、どうしてこれほど人の心をひきつけるのか。ナオから吸いとれる限りのものは吸いとって自分を成長させよう。その成長の秘密を身近に接して吸収しよう。
そして、最後に、ナオについて、また金明会について納得が行けば、その発展の中に自分を投げ入れようと考えたことであろう。ひとり細々として稲荷おろしを営むよりも、のび盛りの教団の中堅幹部として迎えられることを、青年の野心が選ばぬはずがない。青年の才能も博識も弁舌も親分肌の気質も、そこではすべてが花開くことが予想された。
足乳根の親の名迄も世にあげて身を立つるこそ子の務めなれ
名位寿富これぞ神賦の正欲ぞ働かざれば名も富もなし
出口ナオと結んだ後の大本のめざましい発展については、順を追って説明するまでもあるまい。
喜三郎は、金明会入りした翌年の正月、競争者を出し抜いて、ナオの末娘すみ子と結婚した。社長の娘と結婚することによって、中堅幹部どころか、一挙にトップマネジメントに滑りこんだわけである。
やがて、名も王仁三郎とあらためた。神示に導かれたためということだが、世間的に見て、「喜三郎」ではありふれていて安っぽい。「王仁三郎」なら、威厳もあり、高貴にひびく。事実、王仁三郎は、「三郎」と省略して、「王仁」と署名することも少くなかった。天皇の名に類似することのプラスマイナスを十分考えていたことであろうが。
(その6に続く)
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