『安井かずみがいた時代』 島崎今日子 (集英社文庫)
石原慎太郎さんとも「キャンティ」で会っていたのでしょうね。安井かずみさん。
かつて紹介した「キャンティ物語」、「アッコちゃんの時代」とともに、当時の「キャンティ」の雰囲気を味わうことができる本の一つがこれ。
安井かずみさん、ご存知ですか?
作詞家として、小柳ルミ子さんの「わたしの城下町」、和田アキ子さんの「古い日記」、沢田研二さんの「危険なふたり」、郷ひろみさんの「よろしく哀愁」などを残しましたが、なんと言ってもその、バブルを先取りし体現したかのような、オシャレでゴージャスな生活をした女性として、記憶に残る人物でした。
キャンティには、加賀まりこさん、コシノジュンコさんと三人で入り浸っていたようですね。そして、多くの文化人と交流、1977年トノバン加藤和彦と結婚します。
時代はまさに、女性が男性を凌駕してゆくころ。そして文化、ビジネス面で、集団よりも個人が活躍していく兆しの見えた時代です。
そんな時代を若者たちに予見させ、そして自ら体現し、そしてその時代とともに心中していったとも言える安井かずみ。
そんな「猛スピードの高級車」に乗せられた加藤和彦は、1994年に安井が亡くなったのちすぐに再婚しますが、2009年「『死にたい』というより『生きていたくない』。消えたい」と遺書に書いて自殺しました。
この本の裏主人公は加藤和彦さんですね。男にとっての人生、仕事、家庭、そして女…いろいろなことを考えさせられました。
キャンティの創始者であり、高松宮さまの国際秘書を務めた川添紫郎(浩史)は、仲小路彰の一番弟子、右腕のような存在でした。彼を通じて、また彼の奥さん梶子さん(タンタン)を通じて、多くの若者たちが仲小路の哲学をインストールされていたのです。
ちょうど今、活字化している仲小路彰の文章の中にこんな一節がありました。
女性文化の創造
日本再建のためには、新しい自由なる文化創造の方向に対して、女性の溌剌とした進展こそ、日本再創造の母胎であり、とこしえに伝えらるべき豊かな愛にみちた女性文化の実践によって、真に悦ばしい結実がもたらされるであろう。
今日、第二次大戦の終結をへて、深刻な敗北感に抜きがたいまでにとらえられた男性は、自己の持っていた唯一の誇りを失い、この戦後の貴重な年月を無気力と堕落のうちにすごし、空しい日常的徒労の中に疲れ溺れているのを見る。
現在の男性一般は、ドメスティックな、あまりにドメスティックな存在となりつつあり、小市民的幸福の幻影に閉ざされている。彼らは、女性が着実に旧き家庭的な桎梏から解放されつつある現実と対比的に、かえって封建的家庭の小暴君としておさまりかえることを、わずかな希望としているのにすぎないのではなかろうか。——
女性の自覚すべき点は、このような卑小化しつつある男性に、開かれた生命の愛、伝統の誇り、心底からの明るい勇気をみちびき出すことであり、その意味からも積極的に自らの手のうちに文化の最高・最善なるものをしっかりと把握してゆかねばならない。
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