犬目宿からの富士山
旧甲州街道ネタが続きます。
先日は車で走りましたので、なかなか写真を撮る機会がありませんでした。富士山が素晴らしかったのですが。
というわけで、写真ではなく絵で見ていただきましょう。北斎と広重という両巨頭による犬目富士です。
上野原、鶴川から野田尻、犬目まで、なぜあんな峠道を通らせたのか不思議だと先日書きましたが、その答えはまさしくこの富士にあったのでしょう。
特に富士講の栄えた江戸時代には、この絶景は必要不可欠な旅のカンフル剤だったと思います。
今でも中央線や中央道、あるいは国道20号を走っていると、小仏トンネルや大垂水峠を越えてからのあの山間の雰囲気はなんとなく暗く重たく感じられますよね。
関東平野から突然(つげ義春風に言えば)チベットに入るのですから。なんとも侘しい気持ちになります。地図を見てください。
チベットに入ってから大月約30kmの間、ずっとあの調子だとかなり気も滅入りますし、気が滅入ると体力も落ちる。
ですから、あえて厳しい上り坂と下り坂というイベントを設けたのではないでしょうか。ちなみにあの下り坂は盲人が転落することから「座頭転がし」と呼ばれていました。
そのイベントの感動は、なんと言ってもその犬目峠付近からの富士山の素晴らしさです。全く眺望がきかない山道を登り終えたところで突如現れるあの富士山には、江戸の旅人たちも感激したことでしょう。
関東平野から見えていた富士山とは明らかにスケールが違う。つまり、ああ富士山に近づいてきたという感動が味わえるのは、その姿が見えなくなってしばらく経っているからです。そういう効果は絶大だったことでしょう。
では、その感動の富士をご覧いただきましょう。
まず、葛飾北斎の富嶽三十六景から「甲州犬目峠」です。
前景に山が連なるので、裾野はこんなに見えません。しかし、これがある種のリアリズムなのでしょうね。つまり「印象派」的な写実。心の中ではこの広い裾野が想像されるのです。それほどの感動であり、期待であるということでしょう。
続いて歌川広重の筆を三つ。さすが広重の方が西洋的なリアリズムに基づいていますね。それでも桂川が近くにあることなど完全に虚構です。猿橋付近の風景との合成でしょうね。それもまた「思い出的リアリズム」と言えます。それを真似たのがピカソですよ。
皆さん、もしお時間がありましたら、ぜひお車で結構ですから、旧甲州街道犬目宿を通って隠れた富士の絶景をご覧くださいませ。おススメです。
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