『猫町紀行〜貧困旅行記』 つげ義春 (新潮文庫)
さてさて、昨日の続き。
昨日、最後に「昭和の物語」と書いたのが、この「猫町紀行」。伝説の漫画家つげ義春の伝説の旅エッセイです。
久しぶりに、その「猫町紀行」が収載されている「貧困旅行記」を読みました。本当に味わい深い。御本人は「文章が苦手」と謙遜していますが、もしかすると漫画より巧い?
若い時、つげの文章をよく読みました。今になってみると、その影響を受けているなと感じました(この軽薄なブログ文体は別物ですけど)。
国語の先生でありながらあんまり本を読まない私ですが、数少ない読書経験の中から、文体、あるいは文味ということで多大な影響を受けたのが、串田孫一、太宰治、そしてつげ義春です。
そんな私の文章の師匠、つげの「猫町紀行」の舞台になっているのが、昨日紹介した「野田尻」宿です。Wikiにあるように、つげ本人はそこを「犬目」宿と認識していたのですが、ガロの編集者だった高野慎三の考察の通り、おそらく「野田尻」がその舞台でしょう。
昨日書いたように、現代の「野田尻」は時代が止まるどころか、時代に追い越されているような土地です。そこに萩原朔太郎の「猫町」を連想するあたり、さすがつげ義春といったところ。そして、上掲の有名な絵が生まれた。
正直、そこが「犬目」であろうと「野田尻」であろうと、ファンタジーの世界に迷い込む私たちにとってはどうでもいいことです。実際にあの辺りを散策すると、それこそ虚構の村落にいるような不思議な感覚に陥ります。
現在、「猫町紀行」は文庫「貧困旅行記」で読むことができます。Kindleでも読み、鑑賞することができるので、ぜひお読みいただきたい。
地元民としては「秋山村逃亡行」にも改めて感動しました。独身の頃この文章に感化され、秋山村の奥牧野に物件を見つけて本気で引っ越そうかと思っていたほどです。
「日本のチベット」秋山村には、今ではなんとリニアモーターカーが走っています。つげも最後の旅年譜で落胆していますね。
昨日の野田尻の中央道サービスエリアのように、いやそれ以上に超高速で「時代に追い越され、永遠に取り残さる村」になっています。それはそれで何か不思議な魅力があるのですが。
ぜひ皆さんもこの本で予習して、山梨県の郡内地方東部に「逃亡」してみてください。東京、神奈川に隣接する不思議ゾーン、まさに「なまよみ(半分黄泉の国)」ですよ。
Amazon 新版 貧困旅行記(「猫町紀行」含む)
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