森高千里 『渡良瀬橋 2021』に見る「もののあはれ」
昨日は「愛という煩悩」について、ジョン・レノンの音楽を通じて語りました。
人間的な「愛」すなわち「恋(乞い)」という欲求が満たされなかった時、人はむなしさ、切なさを感じます。日本人はそれをある種の美にまで昇華する文化を持っていますね。
「もののあはれ」です。この「もののあはれ」については、本居宣長の説明には全く納得できません。
私の「もののあはれ」論はこちらに書きました。
「思い通りにならない」ということの前提には「思い」があります。それが「乞い」ですね。こうあってほしいという煩悩。
で、今日はまたある名曲から、その「もののあはれ」を感じてもらいましょう。冗談抜きで、どんな和歌よりも、この詩とこの音楽がそれを如実に表わしています。
今までも何回か「私の一番好きな曲」として挙げてきた、森高千里さんの「渡良瀬橋」。今年7月に実現した渡良瀬橋ライヴで聴いてみましょう。
誰しもこの失恋ソングには切なさを覚えることでしょう。思い通りにはならなかったが、しかし決して暗くはない。逆に光さえ感じる。これこそ日本人の「もののあはれ」の表現です。
それにしても、森高千里さんは「無常」ではないのでしょうか(笑)。いや、こうして時を経て、さらに美しさ、崇高さを増すというのも、想定外であるからして「もののあはれ」なのです。それも含めて、この曲は日本の美意識を象徴するということです。
人間の無力さ、時や自然の残酷さや恩恵に対して「ため息をつく」「涙を流す」のが「もののあはれ」なのでした。
ついでに蛇足を。
ここで森高さんが演奏しいてるリコーダー。特にジャーマン式運指のリコーダーは、ヒットラー・ナチスの産物であり、これもまた数奇な運命の楽器です。古楽器として忘れられていたブロックフレーテを、1936年のベルリン・オリンピックの開会式のために復活させたのはナチスです。
それが、こうして日本(のみ)で、学校音楽教育の花形として定着し、時とともにバロック期のオリジナル性、そして近代のフィクション性をも凌駕して、「たて笛」としてすっかり日本の文化になりました。
こうした「想定外」もまた、「もののあはれ」の産物です。そして、その完成を見たのは、実はこの「渡良瀬橋」における森高千里さんの(ブルーノートを含む)演奏だったのです。これは音楽史、楽器史において非常に重要な画期となりました。将来きっと教科書でも語られることでしょう。
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