ショパンコンクールに思う…原智恵子の自伝より
素晴らしいニュースが入ってきました。ショパン国際ピアノコンクールで、反田恭平さんが2位、小林愛実さんが4位入賞という快挙!
今回のショパコンはコロナで1年延期されたということもあり、また、長女のサークルの先輩角野隼斗くんや、友人のピアニストのお弟子さんが参加していることもあって、今までよりも興味深く拝聴しておりました。
たしかに、反田さんと小林さんの演奏は素晴らしかったと思います。音楽の生命感というか、ショパンが現代に生まれ、現代ピアノを弾いたらかくあらんと思わせる演奏でした(お世辞抜き)。
さて、ショパコン2位は50年前の内田光子さん以来だと報じられていますね。実は我が家にそれを疑うに足る資料があるのです。
それは、1937年のショパンコンクールに、日本人として初めて参加した原智恵子の未発表自伝の原稿(1940?)です。仲小路彰邸で見つかりました。
その一部をここに活字化して紹介させていただきます。
…やがてコンクールの最后の決定が発表され、私は二等を得ました。けれどもこのことについてはいろいろとゴタゴタしたことがありました。ちょうど、その頃聴衆の方でも非常にいろんな意見を申し立てるせのですから、面白いことが起りまして、いちばん初めにはルールの十二番目が私の位になっていたんですが、聴衆が非常にやかましく、不正だと言って聴衆の方から騒ぎ立てたものですから、また特賞といふものを戴いて、それでようやく事が収まったのでした。
たしかに「二等」とあります。のちに「十二番目」と言っていますので、書き間違いなのかとも思いますが、結局特賞が二等相当だったと原智恵子は言いたかったのかもしれません。
これに関していちおう公式では、第3回の1位2位はソ連人。原智恵子が賞に漏れたことに対し聴衆が騒いで、結局翌日に特賞が与えられたこともたしかです。
当時、東洋人に対する偏見は相当強かったようで、実質的には智恵子は2位だったということも、まあその当時言われたのかもしれません。まあ、そのあたりは今後よく調べる必要がありそうですね。
それはさておき、原智恵子の自伝で心に残るのは、コンクールのまた別の価値です。これはおそらく今回のコンクールでも一緒だったのでないでしょうか。引用します。
最后の決定も終って、みなそれぞれがディプロマを貰って帰ってゆきます。そのころには一ヶ月か二ヵ月くらい毎日のように顔を合せていましたから、いつしかお友達になり仲よくなって結婚するような人も出て来ました。
同じい芸術に志す者の通ひあふ心は国境を超えて結ばれ、新しいお友達が沢山出来ました。このことは私の音楽生活の中で非常に大きな体験となりました。
その間にはラジオ放送や、オーケストラの演奏会を依頼されて、すっかりポーランドでは私の名前が親しまれるようになり、こうして芸術を通して国民の中へ入り込んでゆくといふことはいちばん直接的で、ほんとうに愛情が目覚めるような感じです。
これだけは物質的な関係とはちがって、深い友情で結ばれ、そういふことがよく考へてみますといちばん真実な美しい仕事だと思ひますし、またそうであるべきがほんとうで、すべてがそうであったならば国との複雑な感情問題や利害関係で、恐ろしい戦争など起るようなことはないのだと思ひます。
1937年と言えば、第二次世界大戦前夜。ナチスの台頭が始まっていた頃です。言うまでもなく、その後ポーランドはその戦禍の犠牲となっていくのでした。
今年のコンクールでは日本人、中国人、韓国人など、東洋人が非常にたくさん参加し、また高く評価されていました。この90年弱でずいぶん変わったものです。時の流れを感じますね。原智恵子は今回のコンクールをどのように聴いたのでしょうか。
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