『若者のすべて』が教科書に!
昨日、KANSASのライヴをおススメしましたが、そういえば10年前にKANSASとフジファブリック(志村正彦くん)の類似性について書きました。
その記事を今見ると動画が消えてしまっているので再掲しますね。ちょっと長いのですが、今日のテーマにつながっていきますので。
(2011.02.21)
地平線を越えて(Live at 両国国技館…これ行ったなあ…)
昨日、「プログレ」の話が出ましたね。私の音楽のルーツの一つは間違いなくプログレです。そう言えば私、一時期「プログレッシヴ・バロック」という古楽バンドやってましたっけ。ま、それほどそういう世界が好きだということです。
プログレというのは面白いもので、本来アンチクラシック音楽(近代西洋芸術音楽)、民俗音楽回帰というところから始まったはずのロックが、「芸術性」すなわち「複雑さ」「構築美」(最初の変換が「好乳首」になってしまった…爆笑)を求めるという、ものすごい自己矛盾の上に成り立っているんですよね。
ま、一絡げには言えませんけれど、いろいろな国にそれぞれの民俗音楽と芸術音楽があって、それらをそれぞれの国のロック・ミュージシャンたちが、なんとか融合しようと頑張った時代があったわけです。
その結果、だいたいがまた新しい矛盾に遭遇することになりました。それは「難解さ」が生む「非大衆性」です。本来大衆音楽であったはずのロックがどんどん難しくなっていって、一度聴いても分からないような方向に行ってしまった。
日本のプログレもそうだったんです。それはそれでマニアックなジャンルとして魅力的でしたがね。しかし、なかなか商売にはならなかった。自己矛盾は自己矛盾のままだった。
私も、自分自身がそういう音楽を求めていた時もありますから、この分野に関してはかなりうるさい方だと思いますが、上記のいろいろな事情を考慮した上でですね、フジファブリックの「地平線を越えて」はすごい曲だと思います。
つまり、そうした自己矛盾を見事に昇華しているということです。8分の12の複合拍子を基本に、変拍子やポリリズムなどを含むことや、また、特殊な転調や先の読めない展開、メロディーではなくパッセージ(リフ)の積み重ねなど、いわゆるプログレの王道をしっかり押さえつつ、メロディー的には日本古来の四七抜きと西洋音階を巧みに混合し、加えて、日本語の譜割りが実にお見事。開音節構造から生まれる単調なシラブルを羅列することによって、音楽的なポリリズムを意図的に無意味化しているところがあります(なんて、いかにもプログレな分析、解説でしょ?)。
私は、この曲を初めて聴いた時、この志村正彦という男はいったい何者だと思いましたよ。こんな若者がいるのか!これは天才だ。その時は、まさか彼が富士吉田の青年だとは思いもよりませんでした。
そして、この曲を聴いて、音作り的にはイエスなども想起されましたが、なにより私の印象と重なったのは、アメリカン・プログレの雄、カンサスのこの曲です。「ポートレイト」。
ELOと並んで、私にヴァイオリンを始めさせたバンドの一つが、このカンサスです。中一の時、こんなのを盛んに聴いていたんですからね、ずいぶんとませたガキでした。てか、みんなこういうの聴いてましたよ、あの時代は。
さて、ここからどんな話になりますかと言うと、志村正彦作品「若者のすべて」が音楽の教科書に!という話です。
「若者のすべて」。言うまでもなく志村正彦くんの代表作です。彼亡き後も含めてフジファブリックの代表作と言っていい。
もちろん志村くんも喜んでいることでしょう。しかし、一方で「若者のすべて」を「代表作」とされることにはどうでしょうか。
そう、KANSASですと、彼らが得意とする難解なプログレ作品ではなく、美しいバラード「Dust In The Wind(すべては風の中に)」が最も有名な作品となりました。
そういうことってよくありますよね。一番売れた曲が「らしくない」ということ。
フジファブリックの「若者のすべて」もそういう曲だと言えましょうか。
もちろん、とんでもない名曲なわけですし、当時初めて聴いた時もちゃんと「志村正彦らしい!」と思ったのですが、たとえば最近の若者がこの曲からフジに入って、その他の「(いい意味で)変態的な曲」を聴いたら、ちょっとビックリするかもしれませんね。彼(彼ら)にしてはシンプルな楽曲ですし、歌詞も妙にピュアです。
旧作から、志村くん最後のアルバムになった「クロニクル」まで変わらず底流する、志村くんらしい抒情性と表現することもできますし、アレンジのちょっとした「面白さ」も彼ららしいと言えますが、やはりどこか屹立した異彩を放っていることもたしかです。
これって天才によくある「あれ」でしょうか。亡くなる直前も、あまりに「降りて」きすぎて、器たる彼は眠れなかったと。それを書き留めた付箋が壁中に貼ってあったと。
あの頃の志村くんは、すっかり地平線も自我も越えてしまっていたということでしょうか。そして故郷に一度帰ってきて、そして永遠の旅に出てしまった。
いずれにせよ、彼の「代表作」が、高校の音楽の教科書に掲載されることになりました。これは本当にすごいことです。
教育芸術社のMOUSAに掲載されるポピュラー作品の一覧を見てみましょう。
なかなかマニアックな選曲ですよね(笑)。
「若者のすべて」は2000年代の代表作品として選ばれたとのこと。
志村正彦が、服部良一、いずみたく、村井邦彦、山下達郎、織田哲郎らと肩を並べたというのは、純粋に嬉しいですし、とんでもないことだと思います。よく見れば、加藤和彦、甲本ヒロトもいるではないか!米津もたしかに新しいソングライター形ですかね。
いろいろ小難しいこと書いてきましたが、とにかく、志村くん!おめでとう!ですね。
なにしろ学校で教えられるのですから。バッハやモーツァルトや八橋検校と並んで!
さあ、あらためてこの時代を飾る名曲を聴いてみましょう!
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