仲小路彰 『原子爆弾に就て』
長崎原爆忌。今年は仲小路彰の文書を一つ紹介いたします。
旧漢字は新漢字に改めるなど、読みやすく翻刻しました。書かれたのは終戦後すぐのことだと思われます。
内容の解釈や感想については、あえて述べませぬ。
原子爆弾に就て
人類の世界は世紀の大転換期に突入し有史以来の規模を以てせる世界大戦も未曾有の大惨禍を到る処に遺して遂に原子爆弾の出現使用せらるるに至りてその終結を遂げたり。
一個の小原子爆弾は二万トンの火薬に等しき破壊力を有し此の新兵器の出現に依り将来の戦争様式は全く一変し、又人類の戦争理念を根底より一新せざるを得ざる時期の近き将来に於て来る事は必然なり。故に之れを如何に使用するかに依りて全人類の運命はあらゆる予想を越えたる重大なる変化を招来すべく、即ち活用、善用、利用、使用、悪用、乱用等之れを用ふるに神の御心に従ってなすか、悪魔の心境を以て行ふかに依って来る可き人類の運命は決定さる。
人類の世界に始めて之れを製造し、悪魔の心境に依って行使せるものはアメリカにして又世界に於て最初に之れを神の御心に依って活用する範を示し給へるは畏くも、聖上御一人に在します。我等国民よく此の有難き大御心を奉戴し、その聖慮に副ひ奉り、微力を尽す可きは当然の責務なり。現代科学最新最大の問題たる此の原子爆弾最初の実験に幾十万の死傷者を出し、一瞬にして全都市を破滅に帰せしめたる貴重なる広島及長崎の両都市は、之れをなるべく現状のまま保存して、あらゆる角度より、百パーセントに活用し、以て人類を一大反省せしむる最も迫力ある活史料となし、又極めて多角的に有効適切なる方法を以てすれば、今次大戦終結の御詔勅により奉戴せる万世の太平を開き世界平和、人類の福祉をもたらすべき、一大紀念碑的事業の実現化となり一万之れに依って国外より数百億ドルの収入を得る事、又不可能に非ず、今や我国の前途国際収支の関係実に容易ならざる秋、この最大のドル価値有る生きたる世界最新最大の史料を如何に活用するかは我国運の前途を左右する重大事なり。
先づ第一にあらゆる困難を克服して現状の保存を進言する所以なり。
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