テレマン 『無伴奏ヴァイオリンのためのファンタジア』
一昨日のCPEバッハのところでも出てきた、バロック期最高のヒットメーカー、テレマン。
気難しく鳴かず飛ばずだったバッハも、テレマンには敬意や親愛を抱いていたようです。嫉妬したりしないところはバッハの人のいいところというか、救いだったのかもしれません。なにしろ、次男にテレマンにちなんだ名前をつけるくらいですからね。
それは、きっとテレマンの方もバッハに敬意や親愛を抱いていたからでしょう。自分にはできないことをやっているなと。黒澤と小津みたいに。
二人のコントラストがよく分かる作品があります。
ちょうどこの前、庄司紗矢香さんのシャコンヌを紹介しましたよね。無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータとソナタは、それこそ宇宙レベルでの超名曲であり、これを超えることは永遠に不可能です。
その曲集が作曲されたのが1720年。バッハが35歳の時です(どんな35歳なんだ!)。その作品の深さ、演奏の難しさもあって、当時それなりに知られていたと思います。特に宮廷のヴァイオリニストの間では。
そして、それから15年後、テレマンもまた無伴奏ヴァイオリンのための作品集を書くことになります。
その内容は、バッハのそれとはまさに対照的。面白いほどに違った様式と内容になっています。
バッハが伝統的な組曲とソナタの形式を守ったのに対し、テレマンは自由奔放な「ファンタジア」の形を採用しました。その中にはフーガ楽章もいくつか見られますが、それもまたバッハのそれらとは全く違う印象を与えるものになっています。
それより何よりですね、いちおう演奏家の端くれとして申すなら、難易度が違うとともに、演奏者だけでなく楽器(ヴァイオリン)の気分が全く違うんですよね。
楽器が喜んで笑っているか、難しい顔しているか。当然前者がテレマンで後者がバッハです。それは「楽器が鳴る」度合いの違いとも言えますが、いやもっと楽器自身の精神的な問題(?)に関わってきます。これって、演奏者ならお分かりになるでしょうね。
というわけで、その楽器の喜び、笑顔を感じていただくために、佐藤俊介さんの名演を聴いていただきましょう。楽譜も見られますので、バッハとの違いを視覚からも感じ取ってください。
全体にアイデアに溢れる魅力的な名曲が並んでいますね。テレマンの面目躍如といったところでしょう。
おそらくですが、当時のヴァイオリニストの中で「バッハのは難しすぎる!もっと楽しい作品を作ってほしい!」という声があったのではないでしょうか。消費者のニーズに答えるのがテレマンのポリシーでしたから。
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