武藤敬司は世阿弥を超えた!?
宮藤官九郎と長瀬智也のタッグによるドラマ「俺の家の話」が好調です。能とプロレスと介護という、まさに「俺の家の話」なので、我が家でも毎回笑って泣いて大変です。
ということで、昨日は能の話、今日はプロレスの話。
いや、ワタクシならではの視点、つまり能とプロレスを同じ視点から見ての文章を書こうと思います。
今日、我が富士吉田市が誇る世界的天才の一人、「俺の家の話」にも出演した武藤敬司(58)が、若きホープ清宮海斗(24)の挑戦を退け、GHCヘビー級王座を守りました。
これはもちろん、その結果のみならず試合内容においてもプロレス界ではとんでもない快挙なわけですが、能の世界においてはどうかという話をしたいと思います。
実はこの話、12年前に書いているんです。世阿弥の風姿花伝をプロレスに当てはめた記事。
あの時は三沢さんのこともあったりして、あんな記事を書きました。三沢さんと武藤選手は同級なので、私は武藤選手のこともある程度念頭に置いて記事を書いたつもりでした。
武藤選手も2010年にはボロボロの膝の手術で長期欠場を余儀なくされていますからね。
そんな武藤選手が、まさか58歳でリアル・チャンピオンになり、若手をバッタバッタと、いや30分以上の長丁場の中でジワジワと攻略して、結果として圧倒的な強さを印象づけて勝利するようになるとは、夢にだに思いませんでした。
つまり、武藤敬司は世阿弥を超えたのです(笑)。後継者に道を譲るどころか、立ちはだかっている。秘すれば花どころか、若手よりもずっと華やかな花を咲かせ続けている。
というわけで、私の「風姿花伝プロレス訳」を再掲しておきます。いかに武藤選手がすごいか、そして、前も書きましたとおり、70歳の師匠がメインイベントで活躍してしまっている能(のみならず伝統芸能)の世界の異常さを考えていただければと思います。
いろいろな意味で、世阿弥はこの私の訳を読んで、どんなことを思うのでしょうか。とりあえず怒らないでほしい…(苦笑)。
…このくらいの年齢(四十四・五)からは、プロレスのやり方がほとんど変わるに違いない。
たとえ世界的に認められ、プロレスを窮めていたとしても、良き後継者を持つべきである。プロレスの才能自体は衰えなくとも、やむを得ず次第に年老いていくもので、肉体的な花も、観客から見ての花も失っていくものである。
まず特別に優れた外見の持ち主ならともかく、それなりの者であっても、素顔、素肌をさらすプロレスは、年をとってからは見られないものである。したがって、そちらの方面ではもう試合はできない。
このくらいの年齢からは、むやみに高度な技を出すべきではない。全体にわたり、年齢に合った試合を、軽く力まず、若手の後継者に花を持たせて、相手に合わせて少なめに動くべきである。
たとえ後継者がいない場合であっても、ますます細かい部分で体に負担がかかるような試合はすべきではない。どうしようとも、観客は花を感じない。
もしこの頃まで消えない花があったなら、それこそが真の花であるのだろう。
その場合は、五十近くまで消えない花を持っているレスラーであるならば、四十以前に名声を得ているに違いない。たとえ世界で認められているレスラーであっても、それなりのプロは特に自分のことを知っているだろうから、ますます後継者を育て、それだけに専念して、あらが見えるに違いない試合をするべきではないのである。このように自分のことを知る心こそ、その道の達人の心であるに違いない。
…このころ(五十過ぎ)からは、だいたいにおいて、「しない」ということ以外には手だてはあるまい。「麒麟も老いては駑馬に劣る」と申すこともある。そうは言っても本当に窮めたレスラーならば、技は全てなくなって、どんな場面でも見どころは少ないと言っても、花は残るに違いない。
亡き父であった者は、五十二だった五月十九日に死去したが、その月の四日、静岡県の浅間神社の御前で奉納試合を仰せつかり、その日の試合は、特に華やかで、観戦の人々は一同に賞賛したものである。おおかたその頃は、技を早々に後継者に譲って、無理のないところをごく少なめに色を添えるようにだけこなしたのだが、花はいよいよ増すように見えたものである。
これは、本当の意味で得た花であるがゆえに、そのプロレスリングにおいては、枝葉も少なく、老い木になるまで、花は散らないで残ったのである。これは紛れもなく、老骨に残った花の証拠である
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