テレマン 『無伴奏ヴィオラ・ダ・ガンバのためのファンタジア』
一昨日、テレマンの無伴奏ヴァイオリンのためのファンタジアを紹介しました。今日は無伴奏ヴィオラ・ダ・ガンバのためのファンタジアです。
なんと、この作品、2015年に発見されたものです。作曲、出版されたのは1735年ですから280年の時を超えて、この現代に蘇った幻の作品なのです。
当時のテレマンは、経済都市ハンブルクの富裕層アマチュア音楽家の要望に応えることに努めていました。それこそバッハとは正反対の姿勢に見えますよね。しかし、これは実はテレマン自身にとっては、最も「芸術的」な創作動機だったのです。
たとえばビートルズを想起してみましょう。彼らはファンの期待に応える、あるいはそれを超えようとして、あのような「芸術的」な作品群を発明しました。あくまでもファンの存在ありきだったのです。
テレマンがどのような信仰心を持っていたか私は知りませんが、おそらくはバッハよりは「神に仕える」意識は低かったのではないかと想像します。
日本人は、(ヨーロッパ的な)信仰心には厚くないと思います。では、日本ではアートは生まれなかったかというと、とんでもない。いわゆる大衆文化が花咲き、それがついにはヨーロッパの「神は死んだ」時代に大きな影響を与えました。
私は、そういう意味で、テレマンの世俗性というか、ポピュラリティに共感する者です。そして、そういうリアリズム、すなわち宗教(キリスト)というフィクションに拠らないで(もちろんそこに拠ることも簡単にやってのけていますが)作品を生み出すことができるところこそ、かの大バッハが(嫉妬せず)憧れた部分なのではないかと思うのです。
というわけで、この作品も、実に見事なアートだと思いますよ。特にガンバ奏者にとっては、この時代にこんな素晴らしい、まさにファンタジーに溢れた作品が「再発見」されたことは、とんでもなく幸運なことでしょう。
正直ガンバの時代は終わりつつあった頃の作品ですが、だからこそでしょうね、新しいガンバの可能性や魅力を発見する作品になっていると感じます。あっ、これ、ガンバだからこその表現だなと思わせるところ満載ですよ。
この作品が、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハのガンバ・ソナタにつながっていったと考えると、父バッハの、次男に託した夢は、見事に実現したと言えるでしょう。
最後に、私も大好きな、そのC.P.E.バッハのヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタハ長調も聴いていただきましょう。
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