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2021.02.20

『レモンのような女 第2話 私は私―アクチュアルな女―より』 実相寺昭雄監督・岸恵子主演作品

 のドラマはぜひ観てください!ぜひぜひ!

 昭和なネタが続いておりますが、これは私自身の人生に、私自身の幼少期のメディア体験がどのように影響を与えているかの再検討のためであります。

 今日は実相寺昭雄監督の知られざる名作ドラマを一つ。ウルトラセブンの撮影の合間に撮られた作品ですが、夜9時半からの大人向けドラマでしたから、当然3歳の私は観ていません。親は観ていたかもしれません。

 昨日紹介の地球防衛軍でも手腕を奮った円谷プロの、その特殊技術や着ぐるみ怪獣の質に不満を抱き、マンやセブンでも人間ドラマや勧善懲悪を超えた世界観を描いてしまった実相寺昭雄ですから、こうした一人の人間(それも女性、それも岸恵子が演ずる)を描く大人のドラマの制作とあって、きっと気合いが入っていたことでしょう。

 実は私、今回初めて観ました。そして、その作品としてのレベルの高さに感激するとともに、なるほどこのような時代の空気感が、今の私を作っているのだなあと感心した次第であります。

 テーマがいいですね。教育、学校、先生、株、お金、でっかい夢、高度経済成長、原子力、宇宙開発、社会と私、欲望と倫理、嫉妬心と保身、女性の自立…。

 元々、この第2話は違う脚本が用意されていたようですね。それをフランスから一時帰国していた岸恵子側が難色を示し、今井正監督の映画のために書かれた泉大八の脚本『アクチュアルな女』をもらい受けたのだそうです。

 これ、今井正監督でも観てみたいけれども、いや、やはり実相寺昭雄監督の、この独特の映像美の世界だからこそ、その現代的なテーマ性が引き立ったのではないかと思われます。

 今の時代に観ても、全く色褪せないどころか、それこそ輝きを増すドラマです。つまり半世紀先を行ってしまっていたと。

 実相寺昭雄独特の、あの「なめる」アングルや、キャメラの独特な水平移動、そしてどアップ。どうでしょう、最近のテレビや映画、あるいはYouTubeの動画などに、こんな個性的な映像がありますかね。

 そして、それが単に奇をてらっているわけではなく、圧倒的な「印象」として、そのテーマと共に心に刻み込まれる。これは一つの様式です。能や歌舞伎にもつながる「カタ」の美。

 当時の業界の大人たちには顰蹙を買っていた向きもありましたが、子どもたちには圧倒的な支持を得ていた。そして、その子どもたちが大人になった時に、さらにその価値を上げている実相寺昭雄ワールド。

 その後世界がようやく彼に追いつき、文化庁芸術祭大賞やカンヌCM映画祭グランプリを受賞、東京藝術大学の名誉教授にまでなるわけですからね。そうなってもオペラの演出をしたりアダルト・ビデオ作品を撮ったり、常に「今の一歩先」を走り続けた実相寺昭雄。

 私の潜在意識の中に、視覚と聴覚とともに、一つの世界観、人生観のイメージがしっかり染み付いています。これぞ、メディアの本来の力であり、学校の勉強なんかよりずっと影響力のある教育なのではないかと思いました。

 はたして、今のメディア人はそういう意識で作品を作り上げているでしょうか。まあ、もちろん当時の彼らもそんなことは意識していなかったのかもしれませんが。では、何が違うのか。それもじっくり考えたいところです。

 音楽は冬木透さん。モーツァルトのディベルティメントを全編に散りばめていますが、途中のバロックのバイオリン協奏曲のフーガ楽章風な曲は、あれは冬木さんのオリジナルでしょうか、それとも既存の作品でしょうか。気になりました。

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