『聖断 天皇と鈴木貫太郎』 半藤一利 (文春文庫)
半藤一利さんが亡くなりました。残念です。
半藤さんにも仲小路彰の残した文書群を見てほしかった。間に合いませんでした。
半藤さんの本の中で、特に印象に残っているのは、この「聖断」です。
二・二六事件の安藤輝三の霊に関わってから、私たち夫婦は鈴木貫太郎に対する格別な思い入れを抱くようになりました。
その鈴木の人柄をこれほど的確に表現した作品はありません。的確ではありますが、実に淡々としている。いわば文学的に表現しているのです。
そして、その鈴木を照らす天皇の威光、いや鈴木に照らされる昭和天皇の苦悩。
日本の運命には、やはり神がかった何かがありました。
たとえば、「聖断」の背後には、やはり安藤輝三の思いもあったことでしょう。
そうした裏ストーリーを知ってしまってから読むこの本には、別格の感動があります。
さらに言えば、この本にも重要なポイントで登場する高松宮。その裏に仲小路彰があったわけです。
終戦へ向けての対ソ政策については、この本だけでなく一般には、近衛文麿に白羽の矢が立ったごとく語られていますが、その裏では、高松宮を特使とする別計画が練られていました。
すなわち、仲小路のグループは、戦前から近衛が左翼勢力やユダヤ国際金融資本と結んでいて、日本を世界大戦に巻き込ませたことを察知していたので、終戦にあたって再び近衛に「活躍」させることはなんとしても避けたかったのです。
そのへんの裏事情を知ってから、またこの本を読むと実に興味深い。スリルと言っては不謹慎ですが、ものすごい緊張感の数カ月間ですね。
さて、半藤さんは昭和史の反省からの教訓として、次の五つを挙げています。
①国民的熱狂をつくってはいけない。そのためにも言論の自由・出版の自由こそが生命である。
②最大の危機において日本人は抽象的な観念論を好む。それを警戒せよ。すなわちリアリズムに徹せよ。
③日本型タコツボにおけるエリート小集団主義(例・旧日本陸軍参謀本部作戦課)の弊害を常に心せよ。
④国際的常識の欠如に絶えず気を配るべし。
⑤すぐに成果を求める短兵急な発想をやめよ。ロングレンジのものの見方を心がけよ。
明日から共通テストが始まります。コロナ禍の中でありながら、教育現場はほとんど総特攻の状況です。若者の命よりも予定通り戦うことを優先しています。
私は昨年からずっと大学のみ9月入学を訴えてきました。コロナなくともこの厳寒期に人生を決する試験を行なうべきではないということです。
日本はいまだ変わらない。変われない。残念であり、恐ろしいことです。
半藤さんの遺言をしかと胸に刻み、そんな旧弊と戦っていかねばなりませんね。
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