「勝速日」in マトリックス
マトリックスねたを続けましょう。
日本の映画やアニメに大きな影響を受けている同作品。日本語も時々登場しますね。
そんな中、カンフー対決シーンに気になる掛け軸がかかっているにお気づきの方も多いことでしょう。
あれ、「勝速日」なんですよね。なんとマニアックな。
「勝速日」とは、アマテラスの長男、アメノオシホミミのことです。正式には古事記によれば「正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命(まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと)」という長〜いお名前でして、その中に「勝速日」という言葉が出でくるんですね。
で、なんで、あのシーンに「勝速日」なのかと言いますと、まず、中国武術のカンフーと日本武術の合気道がごっちゃになっているということから考えねばなりません。
まあ、欧米人にしてみれば、中国も日本もあんまり区別がつかないので仕方ないでしょう。それはいいとして、あのような武術、拳法のシーンに、あのような掛け軸をかけるというのは、それなりの見識に基づいたものです。
実は、合気道の道場に「勝速日」の掛け軸がかかっていることがあるのですよ。すなわち、合気道の開祖にして出口王仁三郎の弟子であった植芝盛平が、この言葉を重視したのです。
正確に言うなら、アメノオシホミミのファーストネーム(?)「正勝吾勝勝速日」を大変重視したのです。
曰く、「正勝」とは心に正しき義をもって不義なるものに勝つべき信念のこと、「吾勝」とは己れの我執我欲を克服してすなわち己れにうち勝つべき信条のこと、そして「勝速日」とは、実践の場においてはいっさい遅疑逡巡することなく一瞬にして相手を制すべき機先の動のことであり、それこそ「戦わずして勝つ」という合気道の理合いである、と。
マトリックスの監督さんか、美術さんか分かりませんが、おそらく合気道の道場で実際にこれを見たか、あるいは写真などで見たのかもしれません。なかなかマニアックなこだわりではあります(なのにカンフーというところが面白い)。
たしかに、マトリックスの一つのテーマである「無意識」と合気道とは通ずるところがあるとも言えますね。
「合気神髄」にも「最も重要な事柄は、正勝、吾勝、勝速日の御事に神ならわねばならない。正勝は屈せぬこと、吾勝はたゆまぬこと、勝速日は勝利栄光をいう」とあります。「はやひ」がただスピードが速いという意味ではなく、「はゆる(栄ゆる)魂」という意味であることを考えると、こちらの解釈も理にかなっています。
植芝盛平のこうした解釈は、もちろん出口王仁三郎の影響を受けたものです。王仁三郎はアメノオシホミミをアマテラスの長男としてはもちろん、戦争に勝つ神として重視しています。究極の勝ち方としての「戦わずして勝つ」という合気道の精神も、また「合気道」という名前も、王仁三郎によるものと言ってもよい。
こうして、マトリックスというアメリカの映画にも、間接的にではありますが、王仁三郎の影響が見て取れるのは面白いですね。
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