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2020.10.04

コレルリのラルゴ

 

 ちゃくちゃアバウトなタイトルですね(笑)。たくさんあるコレルリのラルゴのうち、今日紹介するのはトリオ・ソナタ集、作品3の3の3楽章のラルゴです。

 3,3,3のゾロ目だから?…ということはないと思いますが、このラルゴはコレルリの緩徐楽章の中でも格別に美しいし、のちの音楽史、ある意味では現代のポピュラー音楽にまで強い影響を残しています。

 いきなり低音で「(ハ長調で言うところの)ドシラソファミ」という下降音階が奏されます。最後の「ファソ」はカデンツなので、本体は下降音階です。

 もう、この時点で、特に日本人は大好きですよね。いちいち曲名を上げるまでもなく、このベースラインを持つ名曲(ヒット曲)は無数にあります。

 この変形が、いわゆるカノン進行というやつです。パッヘルベルのカノンのベース音型ですね。それもこのコレルリのラルゴにはちゃんと出てきます。

 そう、おそらくはパッヘルベルはこの曲の影響を受けているのでしょう。それほど、当時コレルリの楽曲は教科書のように模倣されました。その後のバロック音楽の展開は、コレルリの多数の発見の上に成り立っています。ポピュラー音楽におけるビートルズみたいなものですね。

 さらに注目してほしいのは、この「ベタな」ベースラインの上に、実に豊かな和声が展開されていることです。ついつい素人はこの上にさらに「ベタな」和音を乗っけてしまいがちですが、ここはさすがコレルリ大先生。これでもかと不協和音を重ねていきます。

 もちろん不協和音と言っても、ほとんどは掛留によって生じる流動的なものであり、その動きのあるテクスチュアがカデンツで落ち着く美しさはこの世とあの世をつなぐタペストリーのようです。

 動画の楽譜をご覧ください。低音パートに付された数字は和声を表します。基本、2や7や9はベース音に対して隣接していますので、不協和音を形成する要素ですし、縦に隣接する数字が並んでいる場合もそうです。

 その数字の密集具合からしても、いかにコレルリがこの短い楽曲の中で様々な工夫とチャレンジをしているかが分かりますね。

 もちろん、ジャズやボサノバに象徴されるような近代和声、現代和声からするとそれほど複雑なものではありませんが、だからこそ純粋な不協和の美しさを感じることができるのです。

 ちなみにバッハの「G線上のアリア」の冒頭も、この下降音型低音の応用形ですね。

 これらの王道ベースラインを使いすぎると「ベタ」になったり「野暮」になったりします。最近では日本のHIP HOP系の楽曲でもよく耳にするのですが、やはり「ああまたか」感があります。

 その点、ビートルズは肝心なところにしか使わないし、その使い方、つまり和声の付け方やメロディーでの非和声音の扱いなどがお見事です。一瞬そのベース進行に気づかないくらいですから。そのくらいの使い手になれば立派なものです(笑)。

 パッヘルベルのカノンも、あれほど王道ベースラインを繰り返しているにもかかわらず飽きがこないのは、その和声づけに変化を持たせているからです。そして、それがカノン(輪唱)という対位法によって逆算的に作られているところが面白いのであって、あれは単なるムード音楽ではありませんよ。

 というわけで、このコレルリのラルゴ以前に、このような構造の曲はあまりないので、一つのルーツとして紹介させていただきました。

 実は今、この曲を中学生と一緒に練習しているところなのでした。私はチェロです(特殊奏法なんですが…それについてはいつか紹介します)。

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