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2020.08.16

伊藤庸二と仲小路彰

Th_unknown_20200817110901 日の「太陽の子」の記事に出てきた、荒勝文策、仁科芳雄、湯川秀樹を取り上げたNHKBS1スペシャル「原子の力を開放せよ ~戦争に翻弄された物理学者たち~」を観ました。

 相変わらずのNHKの資料収集・調査能力の高さには驚かされます。なかなか進まない仲小路彰研究もおまかせしたいところです。

 さて、戦前・戦中の原子核兵器、電磁波兵器の開発のことを語る時、伊藤庸二の名前を忘れるわけにはいきません。

 伊藤庸二は海軍の技術大佐。特に日本軍のレーダー開発に貢献のあった人ですが、一方で新型兵器の研究にも携わっていました。

 開戦後、すぐに理研の仁科芳雄を動かし原爆開発研究の拠点となる「物理懇談会」を設立。「太陽の子」の舞台となった京都大学の荒勝研究室にも原爆開発の指示をしました。一般には、陸軍が理研、海軍が京大と言われているようですが、実際には両者に伊藤海軍大佐が強く関わっています。

 伊藤は、昭和18年の段階で、原爆の開発は可能だが今次大戦には間に合わないという考えでした。そして、アメリカも間に合わないだろう、すなわち原爆が日本に投下されるとは思わなかったようです。

 しかし、現実には原爆が2発投下され、そして終戦を迎えることになります。それに大変なショックを受けた伊藤は高熱を出して寝込んでしまったと言います。

 終戦後1ヶ月近くたってようやく療養先の山形から帰京した伊藤大佐は、かねてより懇意にしていた富岡定俊海軍少将の仲介で、9月中旬に山中湖を訪れて、およそ1週間にわたり仲小路彰と懇談をしました。

 そこで仲小路が伊藤に語った内容は以下のとおりです(春日井邦夫「情報と謀略」より抜粋)。

 仲小路は伊藤博士の大戦下の技術開発の労苦に心から敬意を表し、その努力が本当に役立つ時代が来たのだと語った。また原子爆弾に関する質問に答えて、原爆はその悪魔的な破壊力によって逆に武力戦争を抑止する性格を持つ。アメリカの最初の原爆使用を平和の契機ととらえ戦争終結を実現した陛下の終戦の大詔こそ、やがて人類救済の大宣言となる。これからの世界は地球を一体とするグローバリズムの時代に進むが、原爆の巨大なエネルギーを地球建設の原動力に転化・活用する新技術の開発こそが、「地球の平和」への基礎となると、そのグローバリズム構想の一端を示唆している。

 終戦からたった1ヶ月後に「グローバリズム」という言葉を(世界で初めて)使っているわけで、それだけでも驚きですが、核抑止力や戦争終結の御聖断の世界史的意義、そして核エネルギーの善用といった、その後の地球の未来を的確に言い当てていることにも注目です。

 ただ、ここでいう「グローバリズム」とは、現今の経済的なグローバリズムではなく、あえて言うなら「八紘為宇(八紘一宇)」の言い換えですので、誤解なきように。

 ちなみに、これより前、8月28日には、1948年のオリンピックを日本で(富士山麓で)開催することを提言しています。恐るべし仲小路彰。

 伊藤はこの仲小路の言葉に感銘を受け、2年後に株式会社光電製作所を設立。海軍の優れた科学技術、特に電波技術を、戦後の漁業におけるソナー、レーダー、GPS、デジタル技術の開発に活かしました。

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