『楢山節考』 深沢七郎原作・今村昌平監督作品
長崎のキリシタンの話から、突然これを思い出して久しぶりに鑑賞しました。
言わずと知れた日本映画の傑作中の傑作。カンヌのパルムドール受賞も納得です。その年、受賞確実と言われた「戦場のメリークリスマス」も名作ですが、やっぱり今観てもこちらに軍配が上がりますね。
原作の深沢七郎は山梨の人。この姨捨伝説も境川の老婆からの聞き取りがベースになっています。
撮影の舞台は信州安曇野ですが、使われている言葉はコテコテの甲州弁。私たちにはなじみのある響きです。
この今村版「楢山節考」は、深沢の同名原作と「東北の神武(ズンム)たち」を元に作られました。つまり、東北の寒村の風習(特に性風習)と、甲州の姨捨伝説(棄老伝説)が見事にブレンドされており、結果として、「生まれ、繁殖し、死んでいく」というエロティシズムが表現されています。
頻繁に挿入される動物の生態が、それを象徴しています。また、原作のように暗く重くならず、どちらかというと明るく描かれている(と私は感じます)ところに好感を抱きます。ある種のたくましさ、そして共同体的愛の強さ、美しさ。
そのあたりが、キリスト教的とも言えるような気がします。深沢が「おりん」の人物造形に、釈迦とキリストをイメージしたというのも納得できます。死と赦しの美学とでも言いましょうか。
ちなみに、我が鳴沢村にも棄老伝説はあります。なにしろ青木ヶ原樹海を抱える貧しい村でしたから。私も樹海の洞窟潜りを趣味にしていた時がありますが、樹海内には「婆穴」「バンバ穴」と称される洞穴がたくさんあり、一通り入ってみました。動物のものと思われる(?)骨が散在している穴もありました。
今や、ゴルフ場、別荘地(総理の別荘もある)と華やかな村になっていますが、昭和40年代までは水もない(川がない)寒冷な溶岩台地の村、文字通りの寒村だったのです。
キリシタン大名の有馬晴信が甲州に流されたのは、当地にキリスト教がほとんど広まっていなかったからと言われていますが、実はキリスト的な原罪意識や犠牲、殉教的な意識(無意識)の強いところだったのかもしれません。さすが生黄泉の国です。
こちらで鑑賞することができます。アラビア語の字幕がつきますが(笑)。これをエジプトの人はどんな感慨をもって観るのでしょうね。案外、砂漠の一神教との共通点を感じるのかもしれません。
そうそう、ちまたで怖いと評判のスウェーデン映画「ミッドサマー」も、棄老伝説とエロティシズムに基づくものですよね。私はこの「楢山節考」の影響を受けているのではと思っています。
ついでと言ってはなんですが、いや、結構この映画の「明るさ」をしっかり捉えたものとして、これも紹介しておきます。志村けんさん、素晴らしい。こうして復活してほしい。そう、キリストの復活とはこういうことだったのでは…。
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