『倍音〜音・ことば・身体の文化誌』 中村明一 (春秋社)
尺八、倍音つながりで、この本です。
この本、本当に素晴らしい。共感するところがたくさんあります。
冒頭の「はじめに」より。
人間は、その歴史の中で、「目に見えないもの」を克服することによって前進してきました。
(中略)
ところが、です。非常に身近なものであるにも関わらず、多くの人々が完全にはその存在に気づいておらず、またほとんど利用することができないものが残されています。
それが「倍音」です。
書き出しからして私好み。つまり「モノ狂い」(笑)。いや、冗談ではなく、「目に見えないモノ」「耳に聞こえないモノ」に対する異様な執着というのは、私も一緒ですから。
著者の中村さんも、海山さんと同じくらい面白い経歴の持ち主。大学で応用化学を学び、ジミヘンや武満徹、そして横山勝也の尺八に衝撃を受け、弟子入りして尺八演奏家になり、バークリーでジャズや作曲を学んで最優等で卒業。
横山勝也師に弟子入りした時の文章が良い。
素晴らしい曲と演奏でした。美しいメロディーがあるわけでもない。当然のことながらハーモニーもない。周期的なリズムもない。それはいわゆる西洋的な「名曲」「名演奏」の概念を超えた、言葉にできないものでした。
「コト葉にできないモノ」…やはり、音楽というジャンルにおいて、モノがコトを呑み込む様子を目の当たり、耳の当たりにしてきたに違いありません。
私も東西の音楽を共に楽しんでおり、決して両者に優劣をつけるつもりはありませんが、少なくとも広さ、大きさに明らかな違いがあります。
その象徴が、まさに「倍音」の扱い方にあるわけです。
特に、整数次倍音よりも非整数次倍音とのつきあい方ですね。日本人は世界でもかなり独特です。
そんなところから、中村さんの考察は、音楽を超えて、ことば、そして文化にまで及んでおり、それがもしかすると、ちょっとした「トンデモ」感を醸してしまっているのかもしれませんが、私からすると、まさに倍音の領域(高次元)でそれらは結びついており、全く不自然な感じはしません。
身近にも尺八の優れた奏者がいますが、彼らに共通しているのは、西洋音楽もかなり深く理解し愛していることです。他の楽器の奏者よりも、それは顕著であり、結果として、東西を融合したり、さらにジャンルレスな音楽に向かったりしているように見えます。
それこそ、日本人らしい思考、志向、嗜好であって、その全体像を説明するのに、たしかに「倍音」は良い例になると私も感じていました。最近も物理学者とその話をして盛り上がりました。
昨日も書きましたが、それこそが「和」なのでしょう。今日は中国育ちの二人の若者と日本語の勉強をする機会があったのですが、そこで、中国語の「和」の話が出ました。日常的に「〜と〜」の「と(and)」という意味で使われるとのこと。
なるほど、「和」は平等、水平的な意味を持つ文字ですね。優劣や高低や前後なく、自然に並び存する感じがします。
日本語として「なごむ」「にぎ」「にき」「にこ(にこ)」「あえる」「たす」「やわす」「やわらぐ」などと読むようになったのもうなずけますね。
さて、「倍音」、それも「非整数次倍音」とのつきあい方については、私はまだまだこれから楽しみをたくさん残しています。若い時は「整数次」という「コト」にこだわってきましたが、後半生は「非整数次」という「モノ」をじっくりたしなみたいと思っています。
そんな私にとって、この本はバイブルですね。
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