『椿井文書ー日本最大級の偽文書』 馬部隆弘 (中公新書)
昨日の「トゥルーマン・ショー」の続きとも言えます。
私は、いわゆる地元に残る偽書「宮下文書」にいろいろと関わってきました。そうした偽書、古史古伝、偽文書というモノは、ある種の「リアリティショー」でもあります。
実際にそれを信じてきた人々が無数にいるわけで、たとえば私なんかも、宮下文書の内容を鵜呑みにしているわけではないのですが、少なくともその内容が私の人生、生活に大きな影響を与えているというのは事実です。
「トゥルーマン・ショー」のディレクター、クリストフが思い通りの世界を作り上げたように、それらの文書では制作者のなんらかの意図のもと、アナザーワールドが形成されています。
私はそのアナザーワールド自体というより、その制作者の「意図」の方に興味を持っているわけですが、そのような視点はもちろん、その内容がどのように伝播し信じられ続けてきたかにも注目しつつ、アカデミックな立場から偽文書を研究しているのが馬部先生です。
正直、ワクワクしっぱなしで読みました。このような虚実皮膜世界、虚が実を侵食する世界、あるいはその逆の世界が根っから好きなんですね、私。
椿井文書のすごいところは、まさに「受け入れられてきた」ということです。
宮下文書においては、「受け入れた」人々はかなり限定的です。一部の好事家や宗教家、政治家に限定されていると言っていいでしょう。お膝元に長く住んでいる者として意外だったのは、地元の人たちには全く「受け入れられて」いないということです。そこがまた別の興味の対象なのですが。
椿井文書が地元から拡大的に広く受け入れられ、引用され、研究されてきたということは、その「嘘」がいかに巧妙であったかということに加え、その嘘の「意図」が絶妙に現実的だったからだと思います。
そのあたりの、まさに虚実皮膜のスリルは、それこそ「トゥルーマン・ショー」と同じくらい面白い。そして、ここへ来て、こうして長い長い物語が一つの完結を迎えるのだなあと思うと、何か感慨深いものがあります。
巨視的に見れば、多くの公認文書たちにも、少なからず「意図」があり、「嘘」があります。当然のことです。では、いったい、どこまでが史料であり、どこからが偽文書になるのか。あるいは、ほかにも椿井文書のように史料から偽文書に格下げされる「史料」が出てくるのか。これは実に興味深いところであります。
それにしても、「山梨(甲斐)」って偽文書と縁が深いですねえ。この本にもいくつか記述があります(網野善彦さんも含め)。さすが「生黄泉の国」。もともと虚実皮膜の国なんですよね(笑)。
さらに言えば、私が最近関わっている近現代の「未知の新史料」とも「未知の偽文書」とも言える、山中湖に眠る仲小路彰文献群。これもまた、昭和の大物たちを動かしてきました。その未来的な「意図」を研究することが、どうも私のライフワークのようです。
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