「ミングる」「タピる」など「〜る」について
さすがにちょっと忙しいので、昔書いた文章を紹介します。
というか、載せるのを忘れてました。恒例の、中学校の入試問題の本文です。毎度しつこく書いているように、私は国語の入試問題の本文を自分で書いちゃいます。その方が楽だからです。
著作権が面倒ですし、だいいち世の中に小学生が読んでちょうどいい文章というのは、あんまりないんですよ。だったら自分で書いた方が早い。
この文は先月行われた一般入試のもの。軽い内容ですが、大人が読んでもけっこう面白いんじゃないでしょうか。
ちょうど、新型コロナウイルス対策として「ミングる(集まる・交わる)」ことを避けるようにと、ニュースでやっておりました。タイムリーといえばタイムリーな文章かな。
では、どうぞ。問題は割愛です。
「タピる」…二〇一九年の流行語大賞にノミネートされた言葉です。みなさんはこの言葉の意味がわかりますか?
これは「タピオカミルクティーを飲む」とか、「タピオカを食べる」という意味だそうです。とすると、私は「タピった」ことがありません(笑)。みなさんはどうでしょうか。
この「タピる」は、「タピオカ」の「タピ」に「る」をつけて動詞(動作を表す言葉)を作ったものです。
「タピオカ」とは、南アメリカ産の植物キャッサバから抽出したデンプンのこと。ですから、もともとは日本語ではありません。
その外国語「タピオカ」の一部「タピ」に「る」をつけて、新しい日本語を作っしまったのが、「タピる」なのです。
実は、こういう言葉はほかにもあります。
たとえば、「サボる」。これはもう立派な日本語になっていますよね。みなさんもよく使うと思います。
この「サボる」の「サボ」は、なんとフランス語の「サボタージュ」という言葉の一部です。かつては「サボタージュする」と言っていたようですが、とても長いので、いつのまにか「サボる」と省略するようになりました。
「サボタージュ」は「仕事を怠ける」という意味です。ですから、「当然やらなければならないこと」を怠ることを「サボる」と言うわけですね。 「学校をサボる」とか「塾をサボる」とか「練習をサボる」とか、そのように使う理由がわかりましたか?
もう一つ、みなさんもよく知っている「ハモる」は、「ハーモニー」(和音)の一部を縮めて「る」をつけたものです。
昔の日本の音楽には「ハモる」という考え方はなかったのですが、西洋音楽が入ってきて「ハモる」ことが日常的になりました。それを昔ながらの日本語で表現するのは難しかったので、では新しい言葉を作ってしまえという感じで生み出されたのが、この「ハモる」という言葉です。
このように、日本人は、外国語をうまく取り入れて、新しい言葉を作るのが得意です。「サボる」や「ハモる」は、すっかり市民権を得て、今では国語辞典に堂々とのっています。
ところで、似たような例なのですが、ちょっとおもしろいのが「ダブる」という言葉です。「重なる」という意味ですね。これもよく使うと思います。
この元になった外国語は、英語の「ダブル(double)」です。「二倍の」「二重の」「対の」という意味の英語です。
この「ダブル(double)」、たまたま最後が「ル」で終わるので、そのまま「ダブる」という日本語の動詞にしてしまったわけです。
同じような例として「トラブる」(面倒なことになる・機械などがこわれる)があります。言うまでもなく「トラブル(trouble)」という英語が元になっています。
また、最近よく聞く「ググる」(グーグルで調べる)も、少し縮まってはいますが、同じようにして生まれた新しい日本語です。
一方、「事故る」「愚痴る」「皮肉る」などは、中国語(漢語)に「る」をつけた例です。すでに輸入されて使われていた「事故」「愚痴」「皮肉」という名詞に、「る」をつけて動詞化したものです。
中国語(漢語)の一部を使ったものにも、おもしろいものがあります。
「告る」は「告白」という言葉の一部に「る」をつけたものでしょう。また、最近の若い人たちは「キョドる」という言葉を使うようですが、これはなんと「挙動不審」の一部に「る」をつけてしまったものです。本当に日本人の造語力はすごいですね。
さて、若者たちがこのような新しい日本語を使うことに対して、「日本語が乱れている」という人たちがいます。そういう人たちはよく、「昔の日本語は美しかった」「昔の人は言葉を大切にした」と言うのですが、どうもそうとも言えないようなのです。
実は、江戸時代の若者たちも、「流行語」を作って楽しんでいたことがわかっています。
「タピる」のような、食べ物、飲み物系ですと、こんなおもしろいものがはやっていました。
それでは、クイズです。まずは食べ物。
「ちゃづる」
さあ、これはどんな意味だと思いますか。
今の私たちもよく知っているあるものを食べることを「ちゃづる」と言ったのです。さて、なんでしょう。
もしかすると、正解した人がいるかもしれませんが、なんと、これは「お茶漬けを食べる」という意味だそうです。
江戸ではお茶漬けが大流行したそうで、今、「タピオカ屋さん」に若者が集まっているように、「お茶漬け屋さん」に当時の若者たちが行列を作ったのだそうです。
一方、飲み物ですと、「けんびる」という言葉があったとか。これは、今でも有名な日本酒「剣菱」を飲むことだそうです。さすがにこれはみなさんはわかりませんよね(私はわかりました…笑)。
さて、「サボる」や「ダブる」は辞書にのるまでになりましたが、たとえば「ちゃづる」や「けんびる」は忘れられてしまいましたね。はたして、「タピる」は日本語として生き残るのか。それを見届けるのも、また楽しいのではないでしょうか。
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