最後のセンター試験国語(その2)〜小説
原民喜が出たのが象徴的でしたね。
令和になって最初のセンター試験。そして最後のセンター試験。センター試験は昭和の残滓…なのか。
戦争文学を学校で教えること、特に小学校で教えることについては、私の中にも賛否があります。
たとえば、この「翳」という作品に流れる死のメロディーは、静かだからこそ、受験生にとっても、いや本番の試験というある種究極の戦いの場だからこそ、深く重く響いたことと思われます。
そういう「モノ」体験というのは非常に重要です。私たちの脳みそで処理できる「コト」ではなく、もののけの「モノ」。
そうそう、原民喜のこの超短編を読んでみてください。「モノ」の教育的効果の重要性が、それこそ「なんとなく」分かります。そして、懐かしいですよね。この感覚。
一方、戦争文学の題材たる「最近」の戦争が、令和になり二時代前の昭和の出来事となり、また、この数十年の戦争技術の驚異的な進化からすると、かの戦争の惨状というのは、まるで戦国時代の武士の戦いのごとく、現実とは全くかけ離れた景色となってしまったという問題があります。
もちろん、そういうふうに教えれば良いのですが、実際の学校現場では、まるで次の戦争も先の戦争のような景色が展開されるいうような、一種の「恐怖教育」が施されているのです。それは私はよくないと思っています。平和教育にならない。まあ、それこそ子どもたちにとっては、原の語る「恐怖教育」的な効果は充分あると思いますけれども。
また、全然試験の内容と関係ないことを書いてしまっておりますが、もう少しおつきあいください。
ここで原民喜が出たもう一つの意味。彼はいちおう小説家ではありましたが、上の写真に左に写っている親友の遠藤周作とは違って、全く売れない、その時代においてはほとんど価値のない男でした。近代的な意味で言えば非生産的だったのです。
しかし、たとえば遠藤は原に特別な「モノ(なにか)」を感じていた。イエスにつながる「モノ(なにか)」を感じていた。
遠藤周作の作品もセンター試験に出たことがありますね。令和の時代になって、ある種近代的な昭和の残滓のような「戦場」で、こうして未来を担う若者たちに読まれて、「なにか(モノ)」を残すということにおいては、原も遠藤に初めて並び得たのかもしれません。
原のような生き方というのも、もしかすると令和の時代にはありなのかもしれません。その時の生産性だけで人間は評価できません。
最後の最後に。この問題の問いもわかりやすく、解きやすかったし、評論の読みの「コト」テクニックとは違う、小説ならではの「モノ」感性も上手に測っているなと思いました。
作問者はだれなのでしょうか。案外若い方なのかもしれません。
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