『津軽のカマリ』 大西功一 監督作品
家族で息を呑みながら鑑賞しました。
ポピュラー音楽を含む西洋和声音楽に親しんでいる私ですが、一方でいわゆる純邦楽を含む、世界の民俗(民族)音楽にも、異様なほどに惹かれます。
なんちゃってとはいえ、いちおう箏、三味線、八雲琴などの日本の弦楽器も演奏することができます。それらを操っている時の脳波の状態は、明らかにヴァイオリンやチェンバロ、ピアノを弾いている時とは違ったものです。違った快感がある。
そして、意味のないことかもしれませんが、いつもどちらの方が次元が高い音楽なのか考えてしまいます。
いちおう現時点での私の結論は、日本の伝統音楽の方が、たとえばバッハの音楽よりも次元が高い…です。かつては逆でしたが。
日本の音楽について語る時、大学時代からどうしても外せない天才が、この初代高橋竹山でした。言語化できない、すなわち楽譜にできない、独特のリズム感、節回し、音程感覚。いや、そうした西洋音楽用語を使うことさえ虚しくなるほどの「モノ」感。
古く、和語で音楽のことを「もののね」と称したことを納得します。
このドキュメンタリー、そうした「モノ」性を見事に表現していると感じました。関係者が語れば語るほど、すなわちコト化すればするほどに、そのモノからは遠ざかっていくという、ある種の快感があります。
一般的な映画として観た時、つまりメッセージ性や情報性を要求する脳ミソで鑑賞すると、ちょっとした物足りなさを感じるかもしれません。しかし、それは「モノ」足りないのではなく、実は「コト」足りないのであって、その原因は「モノ」に満ちあふれていて、いや「モノ」が映画という形式(カタ=コト)から逸脱しているからなのでした。
風や鳥と「コト」ではなく「モノ」を通じて話している竹山。ああ、西洋の神とのつながり方とは違う、もっと根源的な、人間と神のモノとしての一体性のような、なんとも言えない野蛮だけれども崇高な世界が、そこにあります。
二代目をはじめ、お弟子さんたち、皆さんとってもお上手だと思います。しかし、初代とはどうしようもない隔たりがあるんです。それを残酷にも記録している点で、この映画は逸品だと感じました。脱帽です。
Amazon 津軽のカマリ
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 『小早川家の秋』 小津安二郎監督作品(2021.01.18)
- 『ジョーカー』 トッド・フィリップス監督作品(2021.01.11)
- 『パラサイト 半地下の家族』 ポン・ジュノ監督作品(2021.01.09)
- 『ゴジラ』 本多猪四郎監督作品(2021.01.04)
- LUCY(루시) 『Snooze (선잠)』(2020.12.30)
「音楽」カテゴリの記事
- 絹糸ヴァイオリン(ヴィオラ)(2021.01.10)
- 『パラサイト 半地下の家族』 ポン・ジュノ監督作品(2021.01.09)
- ジョン・ルイス 『バッハ 前奏曲BWV 852』(2021.01.08)
- マイルス・デイヴィス 『パンゲア』(2021.01.07)
- 『ゴジラ』 本多猪四郎監督作品(2021.01.04)
「芸能・アイドル」カテゴリの記事
- 今こそ!俺たちの東京スポーツ最強伝説(2021.01.17)
- LUCY(루시) 『Snooze (선잠)』(2020.12.30)
- 追悼 中村泰士さん なかにし礼さん(2020.12.24)
- 『セカンドID―「本当の自分」に出会う、これからの時代の生き方』 小橋賢児 (きずな出版)(2020.12.23)
- 宮川彬良 『イントロの作り方』 (NHK どれみふぁワンダーランド)(2020.12.20)
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 『小早川家の秋』 小津安二郎監督作品(2021.01.18)
- 今こそ!俺たちの東京スポーツ最強伝説(2021.01.17)
- 『江戸の妖怪革命』 香川雅信 (角川ソフィア文庫)(2021.01.16)
- 『芸術は宗教の母なり~耀盌に見る王仁三郎の世界~』 (出口飛鳥)(2021.01.14)
- 『ジョーカー』 トッド・フィリップス監督作品(2021.01.11)
「旅行・地域」カテゴリの記事
- 『芸術は宗教の母なり~耀盌に見る王仁三郎の世界~』 (出口飛鳥)(2021.01.14)
- ありがとう寺・ありがとう神社(2021.01.03)
- 雲見浅間神社(2021.01.02)
- 『セカンドID―「本当の自分」に出会う、これからの時代の生き方』 小橋賢児 (きずな出版)(2020.12.23)
- 『異界探訪 パワースポットの最深部に異界への扉があった』 町田宗鳳 (山と渓谷社)(2020.12.22)
「歴史・宗教」カテゴリの記事
- 今こそ!俺たちの東京スポーツ最強伝説(2021.01.17)
- 『江戸の妖怪革命』 香川雅信 (角川ソフィア文庫)(2021.01.16)
- 『聖断 天皇と鈴木貫太郎』 半藤一利 (文春文庫)(2021.01.15)
- 『芸術は宗教の母なり~耀盌に見る王仁三郎の世界~』 (出口飛鳥)(2021.01.14)
- 善悪不二・正邪一如 (出口王仁三郎)(2021.01.12)
「モノ・コト論」カテゴリの記事
- 『江戸の妖怪革命』 香川雅信 (角川ソフィア文庫)(2021.01.16)
- 『ゴジラ』 本多猪四郎監督作品(2021.01.04)
- 『生き方は星空が教えてくれる』 木内鶴彦 (サンマーク文庫)(2020.12.27)
- 『異界探訪 パワースポットの最深部に異界への扉があった』 町田宗鳳 (山と渓谷社)(2020.12.22)
- 『ゴーマニズム宣言SPECIAL コロナ論』 小林よしのり (SPA!コミックス)(2020.12.17)
コメント