『潜行三千里 完全版』 辻政信 (毎日ワンズ)
幻の原稿「我等は何故敗けたか」初公開!
作戦の神様か、それとも悪魔か。これほど毀誉褒貶にまみれた元軍人もいないでしょう。
戦後はノモンハン事件やバターン死の行進の悪の主役として批判されることが多かった辻ですが、それは彼の戦後のある種不可解な行動が招いたものとも言えます。
僧侶や医者、教授や華僑に化けてアジア各地に潜伏し、帰国後はこの「潜行三千里」で大ベストセラー作家、そして参議院議員となり、最後はラオスで行方不明となるという、なんともドラマチックすぎる人生を送ったのですね。
そんな辻が自らの子どもたちに遺したノートの一節が、このたび公開されました。それが「我等は何故敗けたか」です。
これは非常に興味深い内容になっています。自らの非も認めつつ、あえて自死を選ばず生き延びた心境とともに、タイトルにあるとおり、日本の敗戦の理由をあえて客観的に語っています。
そこには自らの罪に対する後悔とともに、逆に自ら個人の罪を大局の中に落とし込んで、その濃度を薄めようとする心理も読み取れます。子どもたちに当てたものですから、その気持ちもわかるというものです。
詳細はぜひ本書をお読みいただき確認していただきたいのですが、彼の挙げた敗戦原因8点のキーワードだけここに記しておきます。
1,国体の精華を発揮し得なかったこと
2,官僚が政治を誤ったこと
3,外交を誤ったこと
4,科学の水準低く工業力薄弱であったこと
5,国内自給の不可能
6,陸海軍の対立
7,天佑思想
8,戦略を誤ったこと
なるほどと納得できるものばかりですね。非常に説得力があります。逆に言えば、これほどの「弱点」があったにも関わらず、なぜ戦争の道をひた走ってしまったかが問題となるでしょう。
辻政信は二・二六事件にも関わっています。また、知り合いが辻の子孫であることもあって、私も彼に対する興味を強く抱いています。
そして、この「我等は何故敗けたか」が、仲小路彰の「我等斯ク勝テリ」と対を成して、大東亜戦争の本質的二面性を象徴しているように感じます。
戦後74年経ちました。昨年2018年が明治維新150年。そのど真ん中に大東亜戦争がありました。令和という新時代を迎えるとともに、大東亜戦争も一つの歴史として客観的に(感傷的でなく)評価する時が来たように感じます。
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