「恋人」の心の機微(その2)
昨日の続きとなります。今日はもっとどうでもいい「恋人」の心の機微についてです。
実はこのヴィヴァルディの恋人、残っている手稿に不思議な部分があるのです。
第1楽章の冒頭のホ長調のテーマのあと、最初のソロが始まります。そのソロで5度上に転調し、ロ長調でテーマが再現されます。これはよくあるパターンですよね。そして、2回目のロ長調のテーマは少し短縮ヴァージョン。それもよくあること。
問題はですね、ホントどうでもいいのですが、24小節目なんです。ロ長調に転調しているのですが、3拍目の二番目の音「ラ」に♯がついていないんですね。

もし、テーマを忠実に再現するとなると、そこは8小節目に対応しますから、これをそのまま5度上げると「ラ♯」になるはずなのですね。下の楽譜が8小節目です。二つ目の音、ホ長調ですから「レ♯」です。

実は、バロック時代の楽譜では、こういうことはしょっちゅうありまして、まあ書き忘れたとか、書くまでもないとか、そういうことなのでしょうけれども、しかし、また考え方によってはですね、この時代には、同じ小節内で、複数の同じ音に同じ臨時記号がつく時は毎度つける(現代では最初の臨時記号がその小節内で有効)習慣があったので、あえて書いてないということは、やはりナチュラルのラを弾け!という意図かもしれないとも言えるのです。
実際、様々な録音で解釈が分かれており、たとえば昨日聴いていただいた古いイ・ムジチの演奏では「ラ♯」で演奏していますが、最近の古楽器の演奏では、ナチュラルの「ラ」で演奏することが多くなっています。
たしかに、和声学的には、ここはどちらでもOKですけれども、表現されるニュアンスはだいぶ違ったものとなります。あえて言うなら、ナチュラルだと全然ナチュラルでなくブルージーになる。ちょっとした陰影を感じるんですね。一瞬(0.1秒くらい?)ですが。
音楽って不思議ですね。意識や感情の世界と密接に関わっているし、それが全世界ほぼ共通なのですから。
というわけで、今日は、バロック・ヴァイオリンの名手アンドルー・マンゼのソロと指揮、イングリッシュ・コンサートの「ブルージー」ヴァージョンを聴いていただきましょう。テンポが早すぎて全然情緒がない古楽器の演奏が多い中、これは出色のロマンチシズムですよ。
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