ケカチ遺跡出土杯の和歌
今、江戸東京博物館で見られるんですね。
3年ほど前でしょうか、塩山下於曽のケカチ遺跡から、10世紀中葉のものと思われる、和歌を刻した土器(杯)が出土しました。
和歌(短歌)一首の全編が書かれた土器の出土は全国初。それも古今和歌集が編纂されて間もないころに、都から遠く離れた甲斐の国で、すでに「平仮名」が完全な形で使われていたというのは、驚くべき新事実でした。
そこにヘラで刻されている和歌は次のようなものです。
われにより
おもひくるらん(「る」は「ゝ」の可能性もあり)
しけいとの
あはすや□なは(□は「み」か)
ふくるはかりそ
(漢字交じり文)我により思ひ暮る(繰る)らんしげ糸の合はず止みなば更くるばかりぞ
(石田千尋先生訳)わたしのせいで、あなたは日がなもの思いをし続けていることだろう。絓糸のように縒り(寄り)合う(逢う)
ことのないまま離れ離れで終わってしまうならば、ただ更けてゆくばかりの夜になるのだよ(そうならぬよう今
宵は逢おうではないか)。
翻字の過程や歌意の解説などについては、こちらに中央大の石田先生が詳しく詳しく書かれていおります。さすがプロの論文(当たり前か)。
いちおう歌詠みの端くれとして鑑賞しますと…なかなかの名歌だと思います。メッセージ性そのものも秀逸ですし、縁語や掛詞も上手に駆使されています。それこそ古今和歌集に載っていてもおかしくないレベルですね。
甲斐の国には都から国司が来ていましたし、伝統的に渡来人の集団移住などもありましたから、案外中央の文化がもたらされていたようです。
ケカチ遺跡の近くには、塩の山や差出の磯といった、それこそ古今和歌集に出てくる歌枕もありますし、都留の郡もよく賀歌に詠まれました。案外、甲斐の国は「和歌の国」だったのかもしれませんね。
ちなみに欠損部分を「み」と推することに異論はありませんが、私としては「やみ」を「止み(已み)」と「闇」の掛詞としたいところです。掛詞の定義からするとやや強引ですけれども、後ろの「更くる」との縁を想定した方が、より深みが増すように思います。
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