『さよならムーンサルトプレス 武藤敬司 35年の全記録』 福留崇広 (イースト・プレス)
昨日紹介した楽天イーグルスの渡邊佑樹投手と同じ下吉田中学校出身の世界的アスリート、そしてあの志村正彦と同じ下吉田第一小学校、下吉田中学校出身の世界的アーティストでもある、プロレスラー武藤敬司の半生(あえてそう表現します)を詳細に描いた一大絵巻。
素晴らしい本でした。そう、ものすごい文字数ですし、写真もモノクロなのですが、まさに絵巻物のようにカラフルな印象が残りました。天才の人生は本当に色彩豊か。
う〜む、やはり下吉田地区、特に月江寺周辺はすごいなあ。太宰治も縁が深いし、李良枝も住んでいたし、なにしろ志村正彦と武藤敬司という「天才」を育んだという事実に、もっと地元の人は誇りを持つべきでしょう。
ちなみに武藤家は月江寺の檀家です。かつて若かりし頃の武藤選手が、月江寺でサイン会をやったことがありました。あれは志村くんの同級生を担任していた頃だから、ええと、今から23年くらい前でしょうか、つまり1996年くらいですから、高田戦のあと、この本で武藤自身も言っているとおり「ピーク」だった頃でしょう。考えてみるとすごいことでした。私は車でやってきた武藤選手を案内する役でした。
この本では全体を通じて、とにかく天真爛漫でポジティヴな天才、本当に不世出の超天才レスラー武藤敬司という「モノ」に圧倒されっぱなしです。秀才は意識している「コト」でしょうが、それを軽く凌駕してしまう無意識の「モノ」という存在。本人は「ゲテモノ」という表現も使っていますが、結果「下手(ゲテ)」ではなく「上手(ジョウテ)」のモノだったことが証明されています。
この本のクライマックスは、やはり1995年のUWFインターの高田との一戦でしょう。それに関する武藤の言葉にはしびれました。フレアーとの戦いの中で試合が芸術として完成していった。UWFにはマインドがない。彼らはプロレスが嫌いだったのでは。プロレスのマインドとは、弱さをさらけ出すこと。挫折して叩かれて、しかしはい上がっていく姿を見せる。それがドラマであり、感動である。
はなっから、プロレスをスポーツだとは考えていない。芸術だと考えている。表現だと考えている。表現者として圧倒的な天才であったということです。それをある意味本能的に、ある程度アドリブでこなしていってしまった。それは間違いなく猪木をはじめ、ほかのレスラーにはできない芸当でした。生まれ持った天性の才能。それが「天才」。
下吉田第一小学校時代の卒業文集に彼は、22歳で「プロレスラーのほけつ」、32歳で「けっこん、プロレスラー世界一」、42歳で「プロレスラーをやめてうえきや」、52歳で「うえきやめる」、62歳で「死」と書きました。32歳でたしかに世界一になりましたが、57歳になる今年、まだ現役レスラーとしてリングに上がり続けています。
少年時代の夢を実現し、そして少年時代の夢を超える現実を生きている武藤敬司。本当にすごいバケモノです。
両膝は人工関節。しかし、だからこそできるプロレスを日々模索している。まさに世阿弥が風姿花伝で語った「年来稽古条々」。その年齢ならではの花がある。若い頃の「時分の花」は本当の花ではない。「まことの花」を追い求める心こそが、「初心忘るべからず」です。
武藤敬司といオオモノは、間違いなく世阿弥レベルの身体的アーティストです。
Amazon さよならムーンサルトプレス
| 固定リンク
「スポーツ」カテゴリの記事
- 「超々広角」星空観賞用双眼鏡 Super WideBino36(笠井トレーディング)(2025.04.27)
- 神田明神という混沌(2025.04.03)
- 『アルプススタンドのはしの方』 城定秀夫 監督作品(2025.04.01)
- ウナギ・サヤカ vs 里村明衣子(2025.02.19)
- 全日本プロレス祭 アリーナ立川立飛大会(2024.08.17)
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 『だっこがしたい足くん』 そうた (Clover出版)(2025.04.29)
- 追悼 大宮エリーさん(2025.04.28)
- 国語便覧(第一学習社)(2025.04.25)
- 小林一三『清く、正しく、美しく』(風々齋文庫)(2025.04.11)
- YMOと仲小路彰(2025.03.13)
「心と体」カテゴリの記事
- 『だっこがしたい足くん』 そうた (Clover出版)(2025.04.29)
- ホワイト社会?(2025.04.22)
- 貝印 Xfit カミソリ(2025.04.17)
- 食と五感(2025.04.16)
- スプーン&フォーク曲げ(2025.04.15)
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 『だっこがしたい足くん』 そうた (Clover出版)(2025.04.29)
- 追悼 大宮エリーさん(2025.04.28)
- 国語便覧(第一学習社)(2025.04.25)
- 食と五感(2025.04.16)
- スプーン&フォーク曲げ(2025.04.15)
「旅行・地域」カテゴリの記事
- 嵯峨野トロッコ列車(2025.04.30)
- 『だっこがしたい足くん』 そうた (Clover出版)(2025.04.29)
- 「超々広角」星空観賞用双眼鏡 Super WideBino36(笠井トレーディング)(2025.04.27)
- 福知山線脱線事故から20年(2025.04.24)
- 『新幹線大爆破』 樋口真嗣 監督作品(2025.04.23)
「歴史・宗教」カテゴリの記事
- 国語便覧(第一学習社)(2025.04.25)
- 近鉄特急(2025.04.20)
- 伊勢の外宮に思う(2025.04.19)
- 家康公遺言(岡崎城)(2025.04.18)
- 服部半蔵と大久保長安(2025.04.13)
コメント