「平成」(という言葉)を振り返る…
昨日は中学校の推薦入試でした。毎年のことですが、国語の入試問題は私が本文から作ります。そう、小学生が読めて問題にしやすい文章を見つけるのは非常に難しいので、それなら両方の条件を満たす文を自分で書いてしまったほうがずっと楽です。ある意味ずるい作問方法かもしれませんね。
今年もその本文をここで紹介します。今年のテーマは「平成」です。ではどうぞ。
まもなく「平成」という時代が終わります。「平成」という元号は、中国の古い書物の中にある「内平外成(内平かに外成る)」、「地平天成(地平かに天成る)」から取ったもので、国の内外も天地も平和でありますようにという願いがこめられていました。
実際の平成時代は、国内外ともにテロがあったり、大きな自然災害があったりと、なかなか願いどおりにはなりませんでした。
とはいえ、一つ前の「昭和」の時代や、その前の「大正」、さらにその前の「明治」の時代には、二つの世界大戦や日清・日露戦争などがありましたから、それにくらべれば平和な時代だったと言えるかもしれません。
そんな「平成」を、今日は漢字の視点から見直してみましょう。
「平」という漢字は、音読みでは「へい・びょう」と読みます。「平成」や「平行」、「公平」のように「へい」と読むことがほとんどです。ほんの少しだけ「びょう」と読む場合がありますが、みなさんの頭の中には「男女平等」などという時の「平等」という熟語しか浮かんでこないのではないでしょうか。
一方、訓読みでは「たいら・ひら」と読みます。「ひら」と読む例としては「平泳ぎ」や「平社員」、「平謝り」、「平仮名」、そして苗字の「平井」「大平」などが浮かぶでしょうか。
「平」という漢字は、もともと「干」の中に「八」が描かれた象形文字(実際の物の形をかたどった文字)です。
「干」は木を削る道具で、「八」は削りカスが飛び散る様子を表しています。古い中国の文字にはこんなものもあります。削りカスが多めですね。
このように「平」は、道具を使ってデコボコをなくすことを意味する文字です。つまり、最初から「たいら」なのではなく、私たちが意志をもって「たいら」にしなければならないのです。
これを「平和」にあてはめてみますと、「平和」とはただ待っていても訪れるものではない、意志をもって戦争や災害というデコボコをなくしていかなければならないということになります。
ここで「成」の方に目を移してみましょう。この「成」という漢字は案外筆順(書き順)が難しい。みなさんは正しい筆順で書いているでしょうか。
「成」の音読みは「せい・じょう」、訓読みは「な(る)・な(す)」です。音読みで「じょう」と読むのは、仏教の言葉である場合が多い。たとえば「成仏」です。「成就」も元々は仏教の言葉として輸入されました。
さて、訓読みはどうでしょうか。この文章の冒頭に「内平外成(内平かに外成る)」、「地平天成(地平かに天成る)」と書きましたが、ここでの「成る」は「平」と同じようなイメージで使われています。「成」は「完成する」「できあがる」という意味です。つまり、人間が意志をもって何かをなしとげたことを意味しているわけですね。
そうしますと、「平成」とは、「デコボコを削り落としてできあがる」、「平和・公平・平等を私たちの意志で完成させる」という意味だということがわかります。
「平成」という元号は、昭和という時代が終わる時に考案されました。つまり、昭和の人々の願いがこめられているということですね。大きな戦争や差別、不平等があった時代だったからこその願いだと言えるでしょう。
では、平成を生きてきた私たちは「平和・公平・平等が完成する」ように意志をもって努力したでしょうか。はたして昭和の人たちの願いをしっかり受けついだのでしょうか。
たしかに平成は戦争のない時代でした。そういう意味では、たくさんの歴史のデコボコを平らにならしたかもしれません。しかし、一方で私たちは新しいデコボコを作り出してしまったとも言えます。
平成を象徴するのはインターネットです。インターネットにより、私たちは世界の人たちと瞬時につながることができるようになりました。それによって便利になったこと、公平になったこともたくさんありますが、一方で、身近な人との関係が希薄になってしまったり、ぎくしゃくしてしまったりしたのも事実です。
平成という時代は今年の四月で終わります。次の元号は何になるのでしょうか。楽しみですね。どんな願いがこめられるのでしょう。
五月の一日に新しい時代が始まるからといって、「平成」への挑戦が終わるわけではありません。次の時代を作るのは、平成時代に生まれたみなさんです。ぜひ、本当の「平成」の精神で、平和や公平、平等を完成させてほしいと思います。
| 固定リンク
« England Dan & John Ford Coley 『We'll Never Have to Say Goodbye Again』 | トップページ | ファミリーヒストリー『堺正章~父は伝説の喜劇役者 引き継がれる覚悟~』(NHK) »
コメント