2018 センター試験国語(その2)〜玉水物語
小説は割愛。私が推奨する短編全文ではなく、長編の一部抜粋だったので。
古文は印象に残る文でしたね。「玉水物語」…室町期成立の御伽草子の一つ。美しい姫に憧れたキツネが少女に化けて出仕するお話。わかりやすい現代語訳がこちらにありますのでぜひ。
最後はちょっと切ないお話ですね。これって、狐というけだものでさえ、いやけだものだからこそでしょうか、人間以上の純粋さがあるというお話ですよね。
「古文」とひとことで言っても、やはり平安までのものと、鎌倉以降のものとでは大きく違います。おそらく受験生にとっては同じように見えているかもしれませんが、やはり、宮中という特殊な場での文学と、より庶民全体に訴えようとする文学とでは、現代人の私たちにとって「わかりやすさ」に歴然たる違いがあります。
中世の説話や御伽草子となると、まさに一般庶民にわかりやすく書かれていますから、当然入試問題としても取り組みやすくなります。そういう意味では、源氏物語という最強に特殊で高度な文章を大学入試に出すなんていうのは信じられません(実際、センターにも何度か出ている)。
江戸のものになると「出版」という、現代とつながるメディアの形態になるので、より読みやすくなります。ですから、生徒には「知らない名前の作品だったらやった!と思え」と教えています。中古までの難文はだいたい文学史で知っている作品名なので。そういう意味では、「玉水物語」は「いい教材」だったわけですね。
それでも、理系まで含めて、こんなほとんどの日本人が知らない作品を読めるか読めないかを試されるのはどうなのでしょう。それも50点分もある。現代、いや未来にこういう能力って必要なのでしょうか。
いちおう古文の専門家として言います。必要です!
どういう意味かというとですね、古文を読めなきゃダメってこととは違うんですよ。日本文化を大切にしろとかでもありません。
たとえば今回の玉水物語のような「良問」ですと、しっかり勉強したことを利用して読み進めることができるのです。つまり、好き嫌いは別として暗記してきた情報をもとに、未知の作品を読み解いていくことができるのですね。
これって人生においてとても重要な能力です。生きる力、死なない力と言ってもよい。
私が未知の古文を読む時の感覚って、人生における想定外の事態に対処していく感覚と非常に近いんですね。
もちろん、数学において公式を活用して未知の問題を解く場合も同じでしょう。現代文も同じかもしれない。しかし、古文の場合、全体の文脈やメッセージを受け取るという面においては、単なる情報分析とは違った「モノ」的センスが必要なんですよね。「コト(既知)」を使って「モノ(未知)」を解く。もちろん数学でそういうモノを感じる方も多いでしょう。
ですから入試問題というのは実に慎重に作成されなければならないんですね。そういう意味では今回の「玉水物語」は良問だったと思います。
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