『バロックの日本』 守安敏久 (国書刊行会)
バロック音楽愛好家として、最近いろいろと「違うな」と思うことが多い。「違うな」ではなく、「違っていたな」でしょうか。
この前、紹介した佐藤俊介さんの「四季」なんか、その下品なまでの大げささがいかにも「バロック」ですが、かつての古楽器演奏は、どちらかというとお行儀よく、また純粋な響きを追求していたように思います。
それは、いわゆるクラシック音楽演奏の悪弊に対するカウンターとしては、あるべき姿だったのだと思いますが、「バロック」の原義からしますと、やっぱり違っていたのではないかと思うのです。
言うまでもなく、「バロック」とは「ゆがんだ真珠」という意味です。ルネサンス期の均衡の美を求める姿勢に反抗するかのように、あえてその均衡を崩したり、大げさにコントラストを作ったり、意図的な「ゆがみ」を「かっこいい!」と思ったのがバロック時代です。そういう意味ではやっぱりカウンター・カルチャーなんですね。
その「バロック」的な要素というのは、実は日本の文化ではけっこう当たり前で、全然カウンターでもなんでもなく、どちらかというとベース・カルチャーだったと思うのは私だけではないでしょう。
いや、侘び寂びの世界はその逆の境地だ、とおっしゃる御仁もおられるでしょうが、いやいや、ああいう極端な簡素化や、あるいは不完全性を愛でる態度というのは、非常に意図的でもあります。
歌舞伎や浮世絵については、もうそのまんまバロック的です。例外を探す方が難しい。つまり、日本は世界で最もバロックを窮めた国だとも言えるのです。
そんな「日本のバロック」の例を挙げて検証したのたがこの本です。いや、「日本のバロック」ではなく、「バロックの日本」です。このタイトルは正しい。日本の中に見出されるバロック的要素ではなくて、バロックこそ日本であり、日本こそバロックなのです。
取り上げられている人たちは、次のとおり。たしかに魅力的です。私好みの奇人たち。
月岡芳年(浮世絵師)
牧野信一(小説家)
牧野邦夫(画家)
寺山修司(寺山修司)
横尾忠則(グラフィックデザイナー)
寺山修司(寺山修司)としたのは、言わずもがな、彼の職業は「寺山修司」だからです。私は不勉強で、牧野邦夫はよく知りませんでした。いとこの牧野信一は、かつてセンター試験の小説問題に「地球儀」が全文採用されたことで初めて知りました。
考えてみると、バロック作家である牧野信一の作品がセンター試験に出るなんてすごいですね。日本はなんとバロックなんだ!
西洋のバロック音楽に話を戻しますと、たとえばバッハなんかはバロックの枠さえも超えてしまうほどの変態ぶりですよね。異常ですよ。いろいろと極端です。音楽の父とか神とか、私もそう思ってきましたが、ある種の悪魔性で捉え直した方がいいのではないでしょうかね。
というわけで、私の生き方もけっこう「バロック」です。特に最近自分でも呆れるほど、はみ出しています。今日も某大学の先生たちと仲小路彰の話で大盛り上がりしました。仲小路彰もまた変態的とも言えるバロック人間ですね。まさに職業は「仲小路彰」。寺山修司と喧嘩するはずだわ…。
これからもバロック人生を楽しみたいと思います。秩序や均整については、それこそ神様にお願いして、人間らしくゆがんで生きたいと思います。いや、日本の神様はけっこうバロック的か。
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