坂本龍一 『async』
音楽ネタが続きます。忙しいというのもあるのですが、今、おそらく私の中で何かが大きく変わりつつあって、その成就のために音楽がとても重要なファクターであることを、暗に象徴しているものと思われます。
この坂本龍一さんの作品も、もうずいぶん前に購入して聴いていましたが、このタイミングでおススメするということに、何か意味のようなモノ(あくまで「ようなモノ」)を感じます。
モノということでいうと、このアルバムが表現しているのは「コト」ではなく「モノ」でしょう。つまり、不確かであり、一見秩序のないモノ。
コトは、私たち人間の脳ミソの範疇における秩序です。人間の都合で切り分けられた世界がコト。その最先端が「コトの端」すなわち「言葉」です。
従来の音楽というのは、一番最初は「モノ」でした。日本では音楽のことを「もののね」と読んだ。それが、ここ何回か書いてきたように「楽譜」という言語で記録されるようになってから、「コト」の要素が強くなっていった。すなわち、天から降ってくるアドリブよりも、人間の力で構築された作品を何度も再現する方向に変化したのです。
もちろん、民族音楽、世俗音楽の世界は別でした。また、それがクラシックの楽器と理論と結びついたジャズでは、再び「モノ」の要素が占める割合が増えました。
坂本龍一さん自身の音楽も、もしかするとこうした音楽史の流れを凝縮しているのかもしれません。
「async」…シンク、シンクロしていないということです。つまり「非コト」。
聴けばわかるとおり、ベースというか背景には、しっかり構築された「コト」音楽がありますが、その秩序を突然乱入する「モノ」が破壊するような感じ。しかし、破壊は創造の原点です。そこに新しい何かが生まれている。
たとえば、この曲。コト音楽の権化とも言えるバッハのような「音楽」に「ノイズ」が混入してくる。
坂本龍一さんは、若かりし頃、仲小路彰の未来学原論に感銘を受け、「コスモポリス」というロック・オペラを実現しました。ちょうど仲小路彰が亡くなった年です。その貴重な動画がYouTubeに上がっていました。
これを観る(聴く)と、まさにモノが優位な音楽という気がします。ある意味原点回帰したのか。仲小路彰は、ある意味人間の考える秩序のみでは、そこに明るい未来はないとしました。
コスモポリスから30年以上が経ち、いよいよ本当に「コト」より「モノ」の時代、あるいは両者の融合の時代が来ているのかもしれません。
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