ちやほやの語源
皆さん、「ちやほやされたい」ですか?
まあ、悪い気分じゃないですよね、ちやほやされると。
逆に「ちやほやする」立場はどうでしょう。これもそんなに悪い気はしないのでは。簡単に言えば、「ほめる」「かわいがる」わけですからね。
ただ、「甘やかす」という意味合いもあるので、「ちやほやされていい気になる」など、マイナスの意味で使わることもあります。というか、結果として「ちやほやされる」と、いらぬ嫉妬心を買ったり、慢心に陥ったりと、あまりいいことはありませんね。
お金と一緒で、度が過ぎると良くないというわけです。
さて、その「ちやほやする(される」の「ちやほや」ってなんでしょうか。語源をご存知ですか?
実はこれ、あえて漢字で書きますと、「蝶や花や」となるんです。意外ですよね。
「蝶や花や」という文字を見て、「蝶よ花よ」という言葉を思い出す方もいらっしゃるでしょう。そう、それが正解です。
「蝶よ花よ」という表現は明治時代以降の文献に見られます。樋口一葉の「たけくらべ」には、次のような文章があります。
何故でも振られる理由わけが有るのだもの、と顏を少し染めて笑ひながら、夫れじやあ己れも一廻りして來ようや、又後に來るよと捨て臺辭して門に出て、十六七の頃までは蝶よ花よと育てられ、と怪しきふるへ聲に此頃此處の流行はやりぶしを言つて、今では勤めが身にしみてと口の内にくり返し、例の雪駄の音たかく浮きたつ人の中に交りて小さき身躰は忽ちに隱れつ。
「蝶よ花よ」の原型である「花や蝶や」は、なんと平安時代の枕草子や源氏物語にも見られます。古い表現なんですね。
みな人の花や蝶やといそぐ日もわが心をば君ぞ知りける(枕草子)
花や蝶やとかけばこそあらめ、わが心にあはれと思ひ(源氏物語)
いずれも、特別に寵愛するというニュアンスですので、現代の「蝶よ花よ」、「ちやほや」と同じ意味ですね。
すなわち、「花や蝶や」→「蝶や花や」→「ちやほや」という変化をしたと考えられるのです。そして、「蝶よ花よ」は、感嘆の終助詞が「や」から「よ」に変化したのに伴って生まれたものと言えそうです。
今、私たちは「ちやほや」という言葉を使う時に、「蝶」とか「花」を意識することはありませんが、もともとは、「蝶」や「花」が美しく、可愛らしく、またある意味では儚くもろい「愛すべきもの」「大切にすべきもの」だったということですよね。
そう考えると、「ちやほや」が過剰になると「甘え」につながるというのも納得です。また、なんとなくですが、子どもや女性には使うけれども、大人の男性に対してはあんまり「ちやほや」しないような気がしますよね。なにしろ「蝶」と「花」ですから(笑)。
そういう意味では上の画像の選択は間違っていますね。いや、合ってるか(笑)。
それにしても、こういう無意識の中に残る語感というのは面白いですね。
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