身毒(インド)から生まれた二つの名作オペラ
今日は横浜でラモーの「優雅なインドの国々」を演奏してきました。素晴らしい歌手や演奏者の皆さんと共演できて幸せです。いろいろアクシデントがありましたが、それもまた楽しめました。
ご存知の方には釈迦に説法ですが、ここで言う「インド」、すなわち18世紀前半のヨーロッパにとっての「インド」とは、今のインドを指すのではなく、非ヨーロッパ圏全体を指す言葉でした。
その証拠に、このラモーのオペラ・バレエで取り上げられている国々は、トルコ、ペルー、ペルシャ、アメリカとなっています。いわゆる「東インド」と「西インド」ですね。
この「インド」という言葉は、もともと大河(インダス川)を指すサンスクリット語の「シンドゥ」やイラン語の「ヒンドゥ」がヨーロッパや中国で訛ったものです。
ちなみに「シンドゥ」に漢字を当てたのが、「天竺」や「身毒」です。のちに中国でも訛って、玄奘三蔵が「印度」という漢字を使い、現在に至っています。
「身毒」というと、思い出すのが「身毒丸」ですね。「しんとくまる」と読みます。そういえば昨年、万有引力の身毒丸を観に行き、JAシーザーさんにお会いしましたっけ。
この「身毒丸」は、謡曲「弱法師」の元になった中世の説経節「しんとく(俊徳)丸」を折口信夫が翻案した「身毒丸」を、さらに寺山修司が前衛演劇にしたものです。ちなみに三島由紀夫も現代能「弱法師」を書いています。
折口がなぜ「しんとく」に「身毒」を当てたのか。これは明らかではありませんが、折口のことですから、当然かつてインドのことを「身毒」と書いていたことを知ってのことでしょう。「しんとく丸」もある意味仏教説話的でありますから、インドのイメージと、「身毒」という字が持つ、なんともおどろおどろしいイメージを重ね合わせたのだと思います。
寺山はその「身毒」という字のイメージをさらにおどろおどろしく発展させたわけです。
そう考えますと、インダス川から始まり、ヨーロッパではラモーのオペラ・バレエの名作「優雅なインドの国々」が生まれ、日本では寺山の見世物オペラの名作「身毒丸」が生まれたわけですよね。
ある意味かなりいい加減だけれども、人間の想像力の連鎖によって豊かな文化が創造されたことに感銘を受けますね。
両者とも、人間が抱く未知なる世界への憧れと恐れが表現されていると思います。エキゾチックな「モノ」への興味そのものでしょう。その中心に「大河」があるのは、実に面白いことです。
| 固定リンク
「音楽」カテゴリの記事
- 『ウルトラ音楽術』 冬木透・青山通 (集英社インターナショナル新書)(2022.05.22)
- マカロニえんぴつ 『星が泳ぐ』(2022.05.17)
- THE BOOM 『島唄』(2022.05.16)
- 笑点神回…木久蔵さん司会回(2022.05.15)
- 『フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集』 ユアン・シェン(クラヴィコード)(2022.05.02)
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 『シン・ウルトラマン』 庵野秀明 脚本・樋口真嗣 監督作品(2022.05.19)
- みうらじゅん×山田五郎 『仏像トーク』(2022.05.18)
- マカロニえんぴつ 『星が泳ぐ』(2022.05.17)
- THE BOOM 『島唄』(2022.05.16)
- 笑点神回…木久蔵さん司会回(2022.05.15)
「旅行・地域」カテゴリの記事
- みうらじゅん×山田五郎 『仏像トーク』(2022.05.18)
- マカロニえんぴつ 『星が泳ぐ』(2022.05.17)
- THE BOOM 『島唄』(2022.05.16)
- 出口王仁三郎 「天災と人震」(『惟神の道』より)(2022.05.14)
- 『教祖・出口王仁三郎』 城山三郎(その10・完)(2022.05.12)
「文学・言語」カテゴリの記事
- みうらじゅん×山田五郎 『仏像トーク』(2022.05.18)
- マカロニえんぴつ 『星が泳ぐ』(2022.05.17)
- THE BOOM 『島唄』(2022.05.16)
- 『教祖・出口王仁三郎』 城山三郎(その10・完)(2022.05.12)
- 『教祖・出口王仁三郎』 城山三郎(その9)(2022.05.11)
「歴史・宗教」カテゴリの記事
- この世界を支配する“もつれ”(2022.05.23)
- 『ウルトラ音楽術』 冬木透・青山通 (集英社インターナショナル新書)(2022.05.22)
- みうらじゅん×山田五郎 『仏像トーク』(2022.05.18)
- マカロニえんぴつ 『星が泳ぐ』(2022.05.17)
- THE BOOM 『島唄』(2022.05.16)
「モノ・コト論」カテゴリの記事
- この世界を支配する“もつれ”(2022.05.23)
- 『都道府県別 にっぽんオニ図鑑』 山崎敬子(ぶん)・スズキテツコ(え) (じゃこめてい出版)(2022.04.24)
- 「むすび大学」に出演いたしました。(2022.04.11)
- 映画『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道』 岩間玄監督作品(2022.02.15)
- HARUOMI HOSONO『SAYONARA AMERICA』佐渡岳利監督作品(2022.01.30)
コメント