持田盛二 『剣道と気品』
昨日東京の知り合いの方から、いろいろと貴重な史料をお預かりしました。その際、剣道をやっているウチの娘にということで、剣道の奥義に関する資料をいくつかいただきました。
その中に、持田盛二十段の「剣道と気品」があり、大変感銘を受けました。気品と強さが表裏一体というのは、実に興味深いですね。日本文化の真髄でしょう。
どうぞお読みください。そして、持田十段の実際の剣さばきにおける「気品=殺気」を御覧ください。死と美とが結びつく不思議と納得。
剣道と気品 大日本武徳会範士 持田盛二
剣道を修行する上に、種々の目標を立てることができようと思う。昔から「大強速軽」ということがあるが、これなども誠によい教えで、大きい、強い、速い、軽妙な剣、それぞれ修行の目標となるものである。
すなわち、この意味から「気品」ということも剣道修行上の一目標になろうかと思う。
強いということももちろん重要なことであるが、強いだけでは物足らない。「強い剣道」であるとともに「気品のある剣道」でありたいものである。
あの人の剣道に「気品」があるとか無いとかは誰にでも自然に感じられるものであるが、然らばその気品とはどんなものかという段になると、容易に謂いあらわし難い。気を花に譬えれば、気品はその香りのようなものではあるまいか、あるいは心を光になぞらえれば、気品はその映ろいのようなものではあるまいかと
思う。
花鮮やかならざれば薫りを得がたく、光明らかならざればその映ろいを望みえないと同様に、気品は正しい心、澄んだ気から、自然に発する、得も言われぬ気高さである。何事によらず、真剣になっている時ほど、気高いものはなく、三昧の境地、無念無想の境地に入りこんだときほど気品のあるものはない。結局、真剣を離れて気品は得られぬものである。一本の稽古もいやしくもせず、ただ真剣、ただ一心、その心掛けがあったら求めずして上達し、求めずして「気品」のある稽古となるは請け斎戒沐浴、神の御前に出ずるが如き厳粛な気持ちをもって、日々の稽古を真剣に励みたいものである。合いである。
「端正」ということも気品を養う上に大切な要素の一つである。心が端正でなければ気品は生まれない。形が端正でなければ気品は添わない。
いたずらに勝敗に拘泥する時、品が悪くなる。私心、邪念にとらわれて、稽古に無理がある中は気品が添わない。
剣道は「礼に始まって礼に終わる」といわれるが、礼儀を離れて気品はない。
かく段々に考えて来ると、心も形も共に正しく相たすけるのでなければ、真に正しい立派な剣道、気品のある剣道となることはできないのである。「心正しければ剣亦正し」というのも、この意味に外ならないのである。
気品を養う上に於いて「気位」というような事も考えられる。すなわち戦わずして敵を飲む気位、遂には宇宙を呑吐する底の気位に至って、いよいよ気品は高まるので
ある。
さらに申したいことは剣道を単なる竹刀打ちと考えている中は、本当の気品は生まれないということである。 この道は天地自然の理法に貫通する大道であることを悟って、修行の上にも理想をもって進むことが肝要である。
理想ある剣道と然らざる剣道とでは、気品の上にも天地雲泥の差が生じてくる。しかし無理に気品をつけようと気取っても見ても本当の気品にはならない。気品は朝に求めて夕に得られるものではない。絶えず心を練り気を養い、心と業とが進むに従って、自然に備わるべきものである。
奥ゆかしき気品漂うところ、人格そのものに高き香薫じ、明るき光映ろい、誰しも、おのずから湧き起る尊敬を禁じえないものがある。
折れず、曲がらず、鉄をも両断する切れ味と、にえ、におい、いうにいわれぬ気品をもつ名刀の如く、願わくは剣道においても「強さ」と「気品」の両者をあわせ得たいものである。
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