『時間とはなんだろう 最新物理学で探る「時」の正体』 松浦 壮 (講談社ブルーバックス)
昨日に続き、時間のお話。
昨日とは打って変わってちゃんとした時間論。なにしろ「最新物理学で探る」わけですから。いや、それ以上の価値がありました。
まずは、少年時代理系を目指しつつ比較的早く挫折し、完全なる文系になったワタクシとしては、この本の目指す「数式を使わないで」という方針はまさに渡りに船というか、地獄で仏というかでしたね(笑)。
あっそうそう、先に書いちゃいますが、ちょっと前まで理系を挫折して文系になったことを、私は「負け」だと思っていたんですが、最近は完全にひっくり返って「大勝利」だと思うようになりました。
コトで世界を見ようとする理系のかっこよさを認めつつ、やはり本質はモノの方にあると悟ったからです。
おっと、私の「モノ・コト論」を知らない人は、え?理系がモノで文系がコトじゃないの?と思われるかもしれませんが、逆です。コト(型・言語・理論)の究極の形が数式(数学)であり、それで説明できない、いわばコトの補集合全体がモノ(もののけ?)ですので。
で、この本も結局のところ、狭いコト世界での話に終始しているので、文系からの上から目線的には(笑)、結果としてやっぱりその他補集合の方が本体だなと。たとえば「時間」についても。
だから、いくらここ数百年の物理学のすさまじい挑戦と成功と発見の歴史を解説したところで、それを実現してしまった人間のすごさをものすごくよく分かる一方、「時間とはなんだろう」という問いについては、結局「よく分からない」という結論になってしまっている。
まあ文系的に言えば、そういう理解できない、すなわち制御不可能なところこそが、「もののあはれ」であって、そう、たしかに「もの」や「あはれ」や、その組み合わせの「もののあはれ」という日本語の使用例を見れば、そこには必ず「時間」の流れ(無常観)が関わってきています。
時間の不可逆性、いやそれ以前に止めることができないという本質に対してため息をついたのが「もののあはれ」ですからね。ブッダの言う「苦諦」です(「もののあれは=苦諦」参照)。
さらに、ある意味文系的なアプローチとしての「哲学的時間観」というのも、結局は言語という「コト(の端)」によって、正体不明な「時間」を解説しようという試みなので、かなり無理があります。ハイデガーでさえも結局あきらめてるし。
ですから、私はもっと生活感に根ざした「時間論」を展開したいと思っているわけです。それが、結果として「時間は未来から過去へと流れている」という、現代地球人の一般常識とは180度違うものになってしまっているのですが。
もちろん、私は理系を否定しているわけではありません。いつも書いているとおり、私の哲学の終着点は「コトを窮めてモノに至る」ですから。そういう意味ではこの本の価値は高いと思います。数式(純粋コト)ではなく、人間味あふれる手垢のついた言葉(コトの端)で全体を予感させようとしているわけですから。
著者は科学者であり、詩人なのでした。実際、自然界と人間の、両方のすこさが表現されていますし。私はそういう人が好きです。
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