『新しき土』 原節子主演・アーノルド・ファンク監督作品
この前紹介した伊丹万作の「戦争責任者の問題」。あれを書いたあと伊丹はすぐにこの世を去りました。
「だまされる」側を断罪した伊丹、そこには当然自らの愚かさへの反省の気持ちもこめられています。おそらくそうした反省の一つがこの作品でしょう。
ご存知のように、この作品には、アーノルド・ファンク版と伊丹万作版の二種類のバージョンがあります。もともと共同監督という形でという話だったのですが、二人は大げんかしてしまい、結局別々に編集することに。
結果として、伊丹版は散々な評価で終わり、伊丹は恥をかくことになりました。また、歴史的に言えば、日独防共協定への道を作り、「戦争責任」の一端を担ったことになってしまった…。
伊丹にとっては、本当に思い出したくもない作品でしょう。ちなみにその伊丹版、私は未見です。観るのも辛いかも。
ファンク版も正直大した作品ではないわけですが、なんと言っても16歳の原節子が理屈抜きに素晴らしすぎてたまりません。
また、無駄にたくさん配置された「日本の名所」たち。貴重な記録ですね。特に様々な富士山のアングルは興味深い。冒頭の荒々しい冬の富士山は富士吉田の富士山ですね。数年後には防共の砦となる富士山です。
原節子は、この映画の宣伝のため、公開直後に欧米を回ります。その時同行したのが、義兄の熊谷久虎。二人はその外遊の最中に、フランスで川添紫郎と出会います。
それがのちに、二人を仲小路彰と結びつけるきっかけとなるんですね。
仲小路彰と原節子の微妙な関係については、こちらとこちらに少し書きました。
この映画が、仲小路彰と原節子を結びつけたと言えます。私にとってはそういう意味で興味深い作品です。戦後、原節子が映画界から姿を消したのちも、仲小路彰は彼女が「細川ガラシャ」を演じることにこだわりました。そして原節子自身もこだわりましたが、結局それは実現しませんでした。
もう一つ番外編。この映画製作のために来日していたファンク夫妻は、偶然、万平ホテルにおいてリアルに二・二六事件に巻き込まれました。なにか象徴的な感じがしますね。ちなみにその日は仲小路彰36歳の誕生日でした。
あっそうそう、この映画の結末で、原節子演じる光子が火山の噴火口に飛び込もうとするシーンが、あまりに唐突だし現実味がないという批判がありますが、これって木花咲耶姫の伝説に基づいたものですよね。
多くの富士山のシーンとともに、いろいろな日本的な過去・現在・未来が象徴されていると感じました。私はこの映画、大した作品ではないけれども、しかし嫌いではありませんね。役者さん、音楽、円谷英二の特撮など、実は見るべきところが多い作品ですし。
Amazon 新しき土
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 日本人は何を考えてきたのか…第9回「大本教 民衆は何を求めたのか」 (NHK Eテレ)(2021.01.19)
- 『小早川家の秋』 小津安二郎監督作品(2021.01.18)
- 『ジョーカー』 トッド・フィリップス監督作品(2021.01.11)
- 『パラサイト 半地下の家族』 ポン・ジュノ監督作品(2021.01.09)
- 『ゴジラ』 本多猪四郎監督作品(2021.01.04)
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 日本人は何を考えてきたのか…第9回「大本教 民衆は何を求めたのか」 (NHK Eテレ)(2021.01.19)
- 『小早川家の秋』 小津安二郎監督作品(2021.01.18)
- 今こそ!俺たちの東京スポーツ最強伝説(2021.01.17)
- 『江戸の妖怪革命』 香川雅信 (角川ソフィア文庫)(2021.01.16)
- 『芸術は宗教の母なり~耀盌に見る王仁三郎の世界~』 (出口飛鳥)(2021.01.14)
「歴史・宗教」カテゴリの記事
- 日本人は何を考えてきたのか…第9回「大本教 民衆は何を求めたのか」 (NHK Eテレ)(2021.01.19)
- 今こそ!俺たちの東京スポーツ最強伝説(2021.01.17)
- 『江戸の妖怪革命』 香川雅信 (角川ソフィア文庫)(2021.01.16)
- 『聖断 天皇と鈴木貫太郎』 半藤一利 (文春文庫)(2021.01.15)
- 『芸術は宗教の母なり~耀盌に見る王仁三郎の世界~』 (出口飛鳥)(2021.01.14)
コメント