パーセル 『一つの音の上のファンタジア』
Purcell : Fantasia a 5 "Upon one note", Z.745
OneNoteというMicrosoftのクラウドサービスを時々使っております。
で、そのOneNoteというのは、おそらく「一つのノート(手帳)」みたいな意味だと思うんですけれど、そういえば音楽にもOneNoteというのがあるなと突然気づきましたので、今日はそれらを紹介します。
noteには言うまでもなく「音符・音」という意味もあります。noteはもともとラテン語のnota(印)から来ています。
そう、音楽において「記述」ということが始まったのは、一つの革命でありました。それまでは、全てが即興か口伝だったわけですから。楽譜が登場したのは西洋では3世紀ごろ、日本ではずっと遅く8世紀くらいでしょうか(もっと早かったという説もあり)。
OneNoteは「一つの音(音符)」。実際のところ、記述される以前の音楽というのは、ある意味OneNoteの上に構築されることが多かった。いわゆるドローン・バスですね。古い楽器にはドローン弦がついていたりすることが多い。この前復元した八雲琴も基本そういう構造をしています。
今でも、即興演奏にはドローン・バスがよく使われます。一つの音(主音か属音)という基礎の上に、自由にメロディーやハーモニーを構築していく。単純なようで、実はとても複雑な音楽を作ることができます。
音楽が記述されるに従って、より意識的に新しい可能性を追求することになり、結果としていわゆる近代西洋音楽が成長していきました。しかし、バッハのような、いかにも記述的、建築的な音楽でも、たとえばフーガの掉尾には、それこそ終わりを予告する「印」のようにドローン・バスが鳴り響くことが一般的です。面白いですね。ルーツに帰って終わるというのが。
ほかにもあえて一つの音にこだわった音楽というのは無数にありますが、今日は天才パーセルの「一つの音の上のファンタジア」を聴いていただきましょう。これは「OneNote」がバスではなくど真ん中でずっと鳴っているという珍しい曲です。さすがパーセルですね。
この曲、なにしろど真ん中にOneNoteが鳴っているので、よく聴かないとそれが分からない。ですので、イメージ化した動画で「見て」みましょう。すごい曲ですね。
私もこの曲を演奏したことがあります。それもど真ん中の音を(笑)。これが意外に難しいんですよ。というのは、ずっと同じ音を弾いているわけですが、周囲の音の関係で、その音のキャラクターがどんどん変わるわけです。それを意識して音にしてゆくとなると、非常に高度な表現力というか演奏力を期待されことになるわけです。
とか言って、実際には周りの人たちが苦労して弾いているのを、ニヤニヤしながら見ていただけなんですけどね(笑)。
しかし、考え方によっては、これぞまさに「縁起」。すなわち他者によって初めて自分が生まれ、変化していくという、お釈迦様の教えの表現でもありますね。面白い。
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