追悼 中村雄二郎さん
哲学者の中村雄二郎さんがお亡くなりになりました。
「述語集」には、大学時代からお世話になりました。難しい本を読む(読んでいるフリをする?)快感を教えてくれた人です。
「臨床の知とは何か」は入試問題にもよく取り上げられていましたので、教員になってから読みました。やっぱり難しかったけれども、ちょうど「モノ・コト論」をやり始めていた頃だったので、暗黙知と形式知をモノとコトにあてはめて考えるきっかけを与えてもらいました。
そう、私はモノとコトでは、モノの方を重視するのですが、そのモノを暗黙知と言い換えると、「述語集」おおける、中村さんの次の言葉は重要な示唆を与えてくれます。
〈暗黙知〉とはどういう内容をもっているか、彼(マイケル・ポラニー)の挙げている例によれば、われわれが或る人の顔を知っているとする。ということは、他の無数の人の顔と区別してそれを認知できるということである。ところが、それでいて、われわれはふつう、その顔を他から区別してどのように認知するかを、語ることができない。写真による犯人のモンタージュのような方法はあっても、その場合でも犯人の人相を同定するには、語りうる以上のことをそれに先立ってわれわれが知っていなければ不可能なのである。同じような知の在り方は、ひとの顔からその人の気分を認知するとき、また、病気の症候、岩石の標本、動植物などの識別についても言える。
この知の在り方は、ゲシュタルト心理学の考えと一脈通じるところがあるけれど、ここではとくに経験の能動的形成あるいは統合に重点が置かれる。科学上の発見、芸術上の創造、名医の診断技術などの技芸的な能力は、みな、この暗黙知に拠っている。
中村さんは西洋哲学の専門家でありながら、やはりどこか日本的な感性を持っていらっしゃった。ご本人の意識は別として、上掲の暗黙知論などは、私のモノ論と非常に近いところがあり、そこを重視している点において、あるいは、暗黙知を形式知に変換することを奨励していない(たぶん)点において、やはり日本的だと感じます。
お亡くなりになってしまったのは残念ですが、これを機に再び「難解な本」に挑戦してみようかと思います。
感謝の意もこめつつ、ご冥福をお祈りします。
Amazon 臨床の知とは何か
| 固定リンク
「ニュース」カテゴリの記事
- 追悼 大宮エリーさん(2025.04.28)
- 福知山線脱線事故から20年(2025.04.24)
- YMOと仲小路彰(2025.03.13)
- 日向灘M7.1発生〜南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)(2024.08.08)
- オリンピックは◯◯の◯◯である!?(2024.08.07)
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 『宗良親王信州大河原の三十年〜東海信越南北朝編年史』 松尾書店(2025.05.19)
- 『皆神山オカルト学序説 -ピラミッド説・皇居移転計画・カゴメ紋解析-』 長尾 晃(2025.05.02)
- 『だっこがしたい足くん』 そうた (Clover出版)(2025.04.29)
- 追悼 大宮エリーさん(2025.04.28)
- 国語便覧(第一学習社)(2025.04.25)
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 光明寺さん(小山市)で思う(2025.05.23)
- 榮山寺のカオスとコスモス(2025.05.22)
- 吉野〜南朝の幻影(2025.05.21)
- 『超国宝』展 (奈良国立博物館)(2025.05.20)
- 私的「大鹿村騒動記」(2025.05.18)
「文学・言語」カテゴリの記事
- 岡崎市円山の神明宮と古墳群(2025.05.24)
- 古文訳J-POP(有隣堂しか知らない世界)(2025.05.12)
- 「ドアを閉めます」(名鉄)(2025.05.10)
- 能『杜若』(2025.05.01)
- 追悼 大宮エリーさん(2025.04.28)
「モノ・コト論」カテゴリの記事
- 地震と大相撲(2025.03.30)
- ハイデガーVS道元…哲学と仏教の交差するところに、はじめて立ち現れてきた「真理」とは?(2024.06.03)
- 文字を持たない選択をした縄文人(2024.02.14)
- スコット・ロスのレッスン(2024.01.12)
- AIは「愛」か(2024.01.11)
この記事へのコメントは終了しました。

コメント