第31回都留音楽祭 最終日(都留と古楽の因縁)
晴信ゆかりの栖雲寺(甲州市)に残る「十字架を抱いた菩薩像」
とうとう、30年以上続いた都留音楽祭が終わる日が来てしまいました。
ここまで盛大に、盛会に、誰しもが大満足で終われることは、実に幸せなことです。
先生方、アシスタント、ボランティアの皆さん、ホールスタッフの皆さん、そして何と言っても遠方から毎年おいでになってくださった受講生の皆さん、本当にありがとうございました。
最終回とはいえ、特にいつもと変わらず、また来年ね〜という雰囲気で終わったのは、実に都留音楽祭らしかったと思います。たぶん、何かの形で、皆さん再会できると感じていらっしゃるのでしょう。それほどに、まるで家族のような、まさにアットホームな音楽祭でした。
大学受験失敗という偶然(必然?)を経て、どういうわけか大好きな古楽の祭典に第1回から関わり、ここ都留が古楽の聖地と言われるまでになる、その歴史を中からじっくり体験できたのは、本当に私の人生にとって最高の運命的邂逅でした。
今日も受講生コンサート、そしていつまでも続くフリーコンサートと、実に充実した感動的な1日でしたが、特に個人的に感慨深かったのは、フリーコンサートで、有村先生指揮合唱クラスの演奏でジョスカン・デ・プレの「千々の悲しみ」が披露されたことです。
そう、私が30年以上抱いてきた、「なんで都留で古楽なんだろう」という純粋かつ難解な疑問への、ワタクシ的な解答がそこにあったからです。
先日、こちらの記事で紹介したように、なんとあのキリシタン大名の有馬晴信は、甲斐国都留郡谷村藩(まさに都留文科大学やうぐいすホールのあるところ)に「島流し」になり、そしてそこで斬首の刑に処されているんですね。
晴信は、天正遣欧少年使節を派遣したその人です。使節の中には晴信のいとこ千々石ミゲルもいました。ミゲルはヨーロッパで音楽を学び、鍵盤楽器の名手となって帰国しました。そして聚楽第で豊臣秀吉に西洋音楽を演奏して聞かせました。
その時演奏されたのがジョスカンの「千々の悲しみ」だと言われています。
その後、ミゲルは棄教し、晴信は岡本大八事件に連座して都留に配流、切腹を命じられます。最後まで信仰を捨てなかった晴信はキリスト教で禁止されている自害はせず、十字架の前で悄然として斬首されたと言います。
きっとその時、以前千々石ミゲルから直接聞いたジョスカンの「千々の悲しみ」が頭の中で静かに流れていたのではないでしょうか。
そのことを、今回の音楽祭の初日に有村音楽監督に申し上げ、ぜひとも「千々の悲しみ」を演奏してほしいとお願いしましたところ、なんと「その曲をやるつもりで楽譜を持ってきた」とおっしゃるではないですか。有村先生は、晴信のエピソードはご存知なかったので、全くの偶然と言えば偶然でした。
そして、合唱クラスで練習をしてくださり、最終日に実際に演奏してくださったのです。400年の時を超えて流れる「千々の悲しみ」。この地に眠る有馬晴信は、どんな気持ちで聴いたのでしょう。
まさか、400年後にこの地で日本人によって「千々の悲しみ」が生演奏されるなどとは夢にだに思わなかったでしょう。いや、晴信やミゲルが、私たち古楽人をこの都留に招いたのかもしれませんね。霊界というのは、そういうものだと私は信じています。
そういう意味も含めて、この「千々の悲しみ」は感動的でした。最後の最後に間に合ってよかった…考えてみますと、「千々」と「千々石」も不思議な符合ですよね。
晴信やミゲルのことは、イエズス会の宣教師によってヨーロッパに伝えられ、当時のジャポニスムの流行もあって、いくつかの戯曲として創作されたようです。時はまさにバロック音楽全盛期。当然、音楽劇(バロック・オペラ)として上演されたこともあるでしょう。
もしかして、処刑のシーンもあったりするのでしょうか。そうだとすると、私たちの全く知らないところで、「都留」がそのまんま「バロック音楽」になっていたということです。
もうこれは偶然ではありませんよね。あまりにピンポイントすぎます。
そんな奇跡的なストーリーを知っていただいた上で、「千々の悲しみ」をお聴きください。
400年以上前から、音楽に関わってくれたすべての人に感謝して、この音楽祭の幕を閉じたいと思います。ありがとうございました。
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