妹尾大さん講演 「創造的な働き方」の考察
東工大教授の妹尾大先生の講演をお寺で聴くという、実に不思議な体験。
妹尾さんは経営工学の若手研究家。現代的な経営学と古典的な修行道場という、一見「場」違いな関係の中に、興味深い「禅味」が浮かび上がりました。
考えてみると、禅宗の修行道場というのは、完璧にシステマチックに動いている場所であり、それも数百年間の智慧の終結としてのシステム。まさに最大効率の経営を目指したものだとも言えましょう。
いろいろ心に残ったことがあるのですが、いくつか思い出したものだけ記します。
今回の研修のテーマ「黙して語る」に関連して、「暗黙知」と「形式知」という言葉が出てきました。
これはワタクシ流に言いますと「モノ」と「コト」というのと同じですね。「暗黙知」とは、言語化されない(コト化されない)実感、意識化されない身体的な知ということになりますか。
それが禅で言う「不立文字」であり、「教外別伝」とも言えます。「今ここ」であり、たとえば言語化された過去などは、「屑」すぎない。
全て「コト(言語・記録・記憶・形式)」などは、時空を超えるがために、いらぬ煩悩、妄想ともなりえます。禅はそれを強く戒めます。
しかし、面白いのは、何度かこのブログにも書いたとおり、そうした「モノ」性の維持のために、「コト」を利用することがあるということです。
禅の修行の作法などはその最たるもの。極度に厳格な形式にはまる、それも意味を飛び越えて、ある種の強制によって、その枠組にはまることによって自由を得るというパラドックス。
私がよく言う「コトを窮めてモノに至る」というやつですね。
妹尾さんの話に「過去の成功体験を捨てる」「過去の成功体験から逃れる」という内容がありました。この過去(コト)という妄想(もうぞう)から逃れるのは、たしかに禅の目標とするところですね。
そういう意味で、最近の消費傾向、興味志向が、「みんなが持っているもの」よりも「誰も持っていないもの」に移行しているという話は興味深かったですね。
流行とは情報であり、それはどう考えても「過去」のコトです。誰かが着ていたとか、どこかで流行っていたというのは、ほんの1分前でも過去の情報にすぎません。それに影響を受けていた時代が終わり、今ここの実感、ひらめき、あるいは未来的な期待というモノが重視されるようになってきた。
そういう「モノ」を作るのがうまいのが、たとえばアップルであったりするわけです。スティーヴ・ジョブズが禅狂いだったのは、なんとも運命的、象徴的ですね。
イノヴェーションが「新結合」であるというのも、モノ性、すなわち「他者性」「他力」「縁起」を象徴しているようで面白かった。
一人のカリスマ経営者が垂範してきた時代が終わり、多くの凡夫たちがそうした指導者に刺激されることによってレベルアップし、「現場」が有機的なそれこそ「現・場」になっていく、そんな近未来像を想像させる講演でした。
この講演を、普通の大学やらホールやらで聴いても、自分としてはこういう理解はでなかっただろうなあ。やっぱり「場」は大切なのか。環境というモノ(外部)によって縁起する「我」。素晴らしい禅体験でした。
もちろん、実生活において、たとえば学校経営、あるいは各種団体やイベントの運営などにおいても、非常に参考になる内容の講演でした。ありがとうございました。
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